漫言放語 №55

「小さな道徳授業」の新たな可能性を追究する

SDK代表 鈴木健二

「小さな道徳授業」の新たな広がり

 『かってもまけてもいいんだよ』(主婦の友社、2022)という絵本を見つけた。

 「小さな道徳授業」はこのような絵本の表紙だけで創ることができる。あなただったらどのような授業を創るだろうか(4月上旬にぴったりの授業が構想できそうである)。

 「小さな道徳授業」は、朝の会やちょっとしたすき間時間を活用して授業できる上に、学級をよい方向に成長させる効果が大きい。

 だから、全国の小学校や中学校に広がりつつある。

 活用しているのは、学級担任だけではない。校長先生にも大好評なのである。現在3巻まで発刊されている『小さな道徳授業』シリーズを全校朝会の講話などで活用する校長先生が急増しているのである。理由は「校長先生の話は長くてつまらない」というイメージを「小さな道徳授業」が覆すからである。

 校長先生が講話で活用すると、学校経営がよい方向に進むようになる。

 校長先生が大切にしたい価値観を教師も含めて全校生徒が共有するからである。


SDK5周年記念大会へ参加を

 以上のように道徳授業や学級経営、学校経営の改善にさまざまな影響を与えつつある新しい道徳授業づくり研究会(SDK)も4月で5周年を迎えることになった。

 そこで5周年記念大会を次の日程で開催する。

 日 時 2024年4月13日(土) 13時30分~17時

 会 場 愛知教育大学教育未来館

 参加費 3000円(会員2000円)

 ※3~4月はSDK会員更新・募集の時期です。会員になって教師力を高めませんか?

 今回のテーマを次のように設定した。


「小さな道徳授業」を効果的に活用する

~この場面でこう活用する~


 そのまま活用しても効果がある「小さな道徳授業」であるが、記念大会では、学級の状況や行事とどのように関連づけて活用すれば、より大きな効果を生み出せるのかを提案する。新たな素材を活用した模擬授業、「小さな道徳授業」活用の新たな提案など、充実した内容が満載である(詳細は「こくちーず」で確認を)。

 「新年度こそよりよい学級経営をめざしたい」と願っている教師にぜひ参加をお勧めしたい。

漫言放語 №54

道徳授業への意欲を高める

SDK代表 鈴木健二

□道徳をやりたいと思ったことは正直、一度もありませんでした。しかし、今回お話を聞いて、はじめて、「次の道徳を早くやりたい!」と思いました。授業をする中で、「こんなこと子どもだって、知っているだろうな・・・」と思いながら授業をすることがありました。今後、生徒の認識を変容できるように、また、導入や発問によって生徒の思考にきっかけを与えられるように、自分自身も学んでいきたいと思います。


□正直、朱書き通りの授業を行うことや、変容の見られないきれいなまとめをして終わ ってしまった授業が多くなってしまっていたと思いました。自分の教材への捉え方が変わることで、教材に合った発問や展開の工夫が生まれてくるということをお聞きし、自分が何を大切にしたいのか、子どもたちにどんな学びを得てほしいのか、今一度考え直すタイミングとなりました。本当にありがとうございました。早く授業がやってみたくなりました。


 これは、ある教育委員会で開催された道徳教育の研修会に参加した教師の感想である。

 研修会参加者は、採用されて4~5年目の伸び盛りの教師である。

 代表の一人が道徳の研究授業を行い、研究協議のあと、講演会という流れである。

 感想から見えるのは、


道徳授業に対する意欲がかなり高まっている


ということである。

 しかも、道徳授業をやりたいと思ったことのない教師や朱書き通りの授業を行っていた教師の意欲が高まっているのである。どうしてだろうか。

 それは、講演会での学びを生かせば、これまでとはまったくちがう手応えのある道徳授業を実現できるのではないか、という意識が生まれたからである。

 SDKでは、教師自身の道徳授業に対する意欲が高まるような数々の提案を行ってきた。教師の意欲が高まらなければ、道徳授業は変わらないからである。

 一番新しい提案は、「教材を深く読むにはどうしたらいいか」ということである。

 教材を深く読むことができるようになると、道徳授業の質が確実に高まる。

 冒頭で紹介した二人の教師の学ぶ意欲にスイッチを入れたのも、この提案だったのである。SDKでは、来年も、教師自身が道徳授業をやりたくなる提案をし続けていくつもりである。

漫言放語 №53

開発教材で道徳授業をつくる

SDK代表 鈴木健二

 『侃侃諤諤』第21号が配信された(会員限定のメールマガジン全20ページ)。

 今回の特集テーマは、


開発教材で1時間の道徳授業をつくる


である。

 自ら開発した教材で道徳授業をつくるのは、高度な力量がないと難しい。今回の特集では、その難しさをどう乗り越えるかというヒントが満載である。

 例えば、執筆者の一人H氏は、


新たなものさし+具体的事例で1時間の道徳授業をつくる


という提案をしている。

 道徳授業では、認識の変容を促すことが重要であるが、そのポイントとなるのが、行動の指針となる「新たなものさし」を示すことである。子どもたちは、「新たなものさし」を学ぶことによって、自分自身の言動をよい方向に変えていくためのヒントを得ることができる。それをさらに強化するのが、具体的事例を加えるというアイデアである。

 H氏の論文を読むと、開発教材で1時間の道徳授業をつくるための重要な視点が見えてくる。

「侃侃諤諤」鈴木先生論文冒頭

 私も巻頭論文で具体的な素材をもとに、開発教材で道徳授業をつくるステップを提案した(右に冒頭部分のみ示す)。


 SDKのメールマガジン『侃侃諤諤』は、どのページからも、明日の道徳授業に役立つヒントを学ぶことができる。また、道徳授業の質を高めるための切磋琢磨の場にもなっている。あなたも会員になって学び合いませんか。

漫言放語 №52

学びを広げる

SDK代表 鈴木健二

ふるふる通信

 素敵な通信が送られてきた。

 熊本のF小学校で発行されたものである。

 9月上旬、F小学校の研修会で講演したのだが、その時の学びを研究副主任のW先生が「ふるふる通信」としてまとめたのである。

 学びはインプットするだけでは定着しない。


 自分の言葉で整理し、アウトプットすることによって、深い学びとなる


のである。

 通信の次のような言葉が心に残った。


□研修後、子どもたちの具体的な生活の場面や、本の表紙、ポスターなどを見かけると「小さな道徳の教材になるかも。」と、考えられるようになった先生もいらっしゃるのではないかと思います。

□「友情とは?」皆さんはどう答えられますか。Wは即答できませんでした。調べたり、関連する本を読んだりしなければなりません。その上で、先生方と語り合い、自分の価値観を深めたいと思っています。

□教材ならではの「ねらい」を設定することができるようになるためには、やはり教材研究を積むしかないと思いました。一人で考えるにはなかなか難しいですが、先生方と教材研究をするのは楽しいだろうと思います。「次の道徳を一緒に考えてほしい」と思われる先生は、お声かけください。できればお早めに…。


 4ページにわたる「ふるふる通信」の最後には、コンビニで発見したポスターと活用のアイデアが紹介されていた。このように、


自分自身が一歩踏み出した姿を提示する


ことが、ほかの教師にとって大きな刺激となる。

 通信の言葉の端々から、熱い思いはあるが、決してそれを押しつけることなく、一緒に学んでいきたいという謙虚な人柄が伝わってきた。

 W先生のような教師の存在が、学校を少しずつよい方向に変えていくのだろうと思う。

 F小学校の今後が楽しみである。

漫言放語 №51

夏に学ぶ

SDK代表 鈴木健二

 夏休みは、日々多忙な教師にとって深い学びを積み重ねることのできる貴重な時間である。さまざまな研究会に参加する教師も多いことだろう。私も若いころ、仲間を誘って全国のさまざまな研究会に参加したことを思い出す。

 そのような学びの積み重ねが自分の未来を創っていく。

 サッチャー(元イギリス首相)が次のようなことを言っている。

 努力せずに成功した人を、私は一人も知りません。

 努力こそが成功の秘訣なのです。

 教師にとって成功とは何だろうか。それは、

 子どもにとって価値ある教師になること

ではないかと思う。

 そのような教師をめざす人のために、新しい道徳授業づくり研究会(SDK)では、今年も全国大会を開催する。概要は次のとおり。

  1.  日 時 2023年8月5日(土) 9:45~17:00
  2.  会 場 愛知教育大学
  3.  参加費 3000円(会員2000円)
  4.  テーマ 道徳授業の効果を高める評価のあり方

 当たり前のことだが、ただ努力をすれば教師として成長するわけではない。

 重要なのは、「どのような努力をするか」である。

 大谷翔平も藤井聡太も、その世界で1、2位を争う努力をしている。しかしその努力はしっかりした根拠に基づいている。だから成長し続ける。

 SDKで大切にしていることは、

成長につながる切磋琢磨の場をつくる

ということである。

 全国大会では、午前に自由研究発表、午後に「小さな道徳授業」プランの検討会が設定されている。参加者同士の活発な議論が思考を刺激し、次の努力のヒントが見えてくる。

現在すでに多くの方から参加申込があり、満席まであとわずかである。

暑い夏の一日、全国大会に参加して熱い夏を体験してはどうだろうか。

漫言放語 №50

教師の価値観を深める

SDK代表 鈴木健二

 県の指定で道徳教育を研究することになったS中学校で講演した。

 一時間ほどの講演だったが、先生方の積極的に学ぼうとする姿勢が心地よかった。

 講演の終わりに次のような質問が出た。


□ 友情とか思いやりとかのテーマの場合には授業しやすいのですが、家族愛や郷土愛のテーマになると、授業するのが難しい感じがしています。どうしたらいいのでしょうか。


 「授業しにくい内容項目をどのように扱えばよいか」という質問は、あちこちの学校でよく出される。S中の質問には次のように答えた。

 家族愛や郷土愛について、自分自身がどうとらえているかを検討することが授業づくりの手がかりになる。まずは、家族愛とは何か、郷土愛とは何かについて、教師自身が価値観を深めることが大切だ。

 教師は、家族をどのように思っているのだろうか。家族一人ひとりに同じような家族愛を感じているのだろうか。もし家族愛に差があるとしたらその原因は何だろうか。このように、自分自身は、家族愛や郷土愛についてどのように考えているのかを問い直すことが授業づくりの手がかりになるのである。

 先日、次のようなコラムを読んだ(「天声人語」朝日新聞2023年6月1日)。


絵本『タンタンタンゴはパパふたり』は、オス同士のペンギンが恋をする物語だ。別のペンギンが放置した卵を、2羽は大事にあたためる。やがてタンゴが生まれると、3羽は家族になった。ニューヨークの動物園での実話が基になっている。


 この話から、家族とは何かについて、さまざまなことを考えさせられる。

① 卵を放置したペンギンが生みの親であるが、そのペンギンに対してタンゴは家族愛を感じることができるだろうか。

② まったく血の繋がっていない2羽のオスペンギンとタンゴは「家族になった」と書いているが、家族とは何なのだろうか。

③ 血の繋がった家族と比べて家族愛にちがいがあるのだろうか。

 このような問いに自分自身で答えようとすることによって、家族愛とは何かが少しずつ見えてくる。

 教師自身が価値観を深めることによって、授業しにくい内容項目の教材も授業づくりの手がかりがつかめるようになってくるのである。

漫言放語 №49

勝ちに不思議の勝ちあり

SDK代表 鈴木健二

 野村監督が亡くなって3年になるという。

 しかし、今でも野村監督の教えを受け継いで活躍している人が数多く存在する。セリーグで2連覇したヤクルトの高津監督などもその一人である。

 まさしく、野村監督は


 人を遺した

勝ちに不思議な勝ちあり

のである。

 その野村監督が雑誌で取り上げられていた(『FLASH』2023年2月21日)。

 知っていた言葉もいくつかあるが、専属マネージャーだった小島氏が解説しているだけに、さらに深い学びを得ることができた。

 ここで取り上げるのは、有名な次の言葉である。


  勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし


 小島氏の解説を読んで、この言葉の意味を取り違えていたことに気づかされた。

 「負けたときは、必ず原因がある」のだから、その原因をしっかり分析して次に生かすということなのだ、ととらえていた。

 小島氏は次のように言う。


仕事で結果が出たときほど、反省点をしっかり追求し、次に生かす


 勝ったら誰でもうれしい。喜びのあまり、有頂天になったりする。

 しかし、それは自分の実力ではなく、相手が勝手にコケたことが原因なのかもしれない。だとしたら、たまたま勝った結果だけを鵜呑みにして喜んでばかりいると、自分の課題が見えないまま、次に進んでいくことになる。だからこそ、しっかり反省しなければならないのである。

 言葉の意味を自分の思い込みで解釈することのこわさを改めて感じた。いずれ、この言葉を活用して、小さな道徳授業をつくってみたい。

漫言放語 №48

性的少数者に対する意識を高める

SDK代表 鈴木健二

 「幼稚化する政治家の問題発言 なぜこんなにレベルが低くなったのか」

という記事が目についた(朝日新聞2月5日)。

 記事の中で気になったのは、ノンフィクション作家の保阪正康氏の次の発言である。

「以前なら、失言に同調する国民は少数派でした。しかし最近、『おかしな発言だ』とは思わない人が増え、大きな問題とはならない事例が増えていると思えてなりません」

 つい最近も、政権中枢にいる人物が性的少数者を差別するような発言をして海外にまで報道された。

 2021年の世論調査(朝日新聞)では、同性婚を「認めるべきだ」は65%、「認めるべきではない」は22%となっており、同性婚に対する国民の意識はかなり変わってきていると考えられる。しかし、「おかしな発言だ」とは思わない人が増えてきているとしたら、いずれこうした発言も大きな問題にならなくなるのかもしれない。

 このような時代の流れの中で、私たち教師にできるのは、授業をとおして、おかしいことはおかしいと感じることができる感覚を育てていくことだろう。

 LGBT法連合会事務局長の神谷悠一氏は、次のように言う(「性別欄のこれから」朝日新聞2023年2月2日)。


厚生労働省 様式例

□ 公的機関や学校、会社に出す申請書や証明書、調査、アンケートなどの多くに「性別欄」があります。男性か女性かという従来の二項目に加え、「その他」「回答しない」などの選択肢を加える自治体が目立ってきました。


 厚生労働省も、履歴書の性別欄に男女の選択肢を設けない様式例を示している。

 こんなささやかなところから、子どもたちの性的少数者に対する意識を高める道徳授業を創ることもできそうである。


① 2つの履歴書(男女の選択肢があるものと任意記載のもの)を比較する。

② なぜ履歴書がこのように変わってきたのかを話し合う。

③ オールジェンダーのトイレ表示の事例等を示して、性別に対する世の中の動きを話し合う。


 一人ひとりの教師にできることはささやかであるが、目の前の子どもたちとよりよい社会をつくっていくための授業を工夫していきたいものである。

漫言放語 №47

ここがあなたのパワースポット

SDK代表 鈴木健二

スタバのポスター

 自宅の近くにスターバックスができた。

 おいしいコーヒーを飲みながらちょっとした喧噪の中でパソコンに向かうと、不思議と集中力がアップして仕事がはかどる。というわけで、この原稿もスタバで書いている。

 新しいスタバで、素敵な素材を二つ発見した。

 その一つが、右の写真である(このスタバのスタッフが制作したということだった)。

 目を惹いたのは


ここがあなたのパワースポット

 

 というタイトルである。次の文章も心に響いた。


お客様、地域にとって、ここ宮崎神宮東店がポジティブな存在となり、あたたかなつながりと、たくさんの笑顔であふれる場所を目指します。


 このようなコンセプトの共有は、働く人たちのモチベーションにもつながっていくことだろう。

 2023年がスタートした。

 新しい道徳授業づくり研究会(SDK)も、会員にとって「ここがあなたのパワースポット」と言える場所にしていくことができたらと思う。

 SDKが、会員一人ひとりにとって「ポジティブな存在」となることによって、会員同士の「あたたかなつながり」ができ、「たくさんの笑顔であふれる場所」になれば、会員周辺の教師にもよりよい影響を与えることができるようになるはずである。 

  そのようなSDKをめざして、今年度は次のことに挑戦していく。


挑戦1 メールマガジンの充実と発展(会員の道徳授業力を高めるための新企画を検討中)

挑戦2 機関誌『談論風発』(全国の小中学校に無料配付)の充実と発展

挑戦3 書籍「小さな道徳授業」の出版(会員の実践が書籍に掲載される貴重な場となっている。第3巻は夏の全国大会に向けて編集中)

挑戦4 「小さな道徳授業」サイトの全国規模での展開(教育出版とタイアップしたサイトで「小さな道徳授業」プランを定期的に更新・無料公開し、学級経営充   実のヒントを誰でも活用できるようにする)

挑戦5 創立記念大会、全国大会の充実(会員同士が厳しく学び合える機会を数多く   設定し、資質の向上を図る)


 あなたもSDKをパワースポットにして、大きく飛躍するきっかけにしませんか。


漫言放語 №46

自分の意見をもつ力を育てる

SDK代表 鈴木健二

 10月下旬、後期の大学院の授業が始まった。

 自己紹介で、ある大学院生が「精神的自立をテーマに研究しています」という話をした。

 このような話を聞くと、次々と疑問がわいてくる。

 「精神的自立とは何だろう?」

 「精神的自立を促すにはどうしたらいいのだろう?」

 「どのような教育活動が精神的自立につながるのだろう?」

 調べてみると、精神的自立とは「自分の行動を誰かの意志に委ねていない状態」であるという説明があった。さらに調べてみると、精神的に自立できているかどうかをチェックする5つのポイントを紹介しているホームページがあった。

 一番目に挙げられていたのが次のポイントである。


自分の意見を持っているか?


 

 自己紹介のおかげで、自分の意見をもつ力を育てることの重要性を改めて認識することになった。

 9月から10月にかけて、教育実習生も含め、かなりの数の授業を参観した。

 しかし、これでは「自分の意見をもつ力」は育たないだろうと感じる授業が大半だった。

 「主体的」という言葉を校内研究のキーワードにしている学校の授業も同様である。

 原因の一つは、挙手指名方式が授業の進め方の基本になっていることである。

 先日参観した道徳の研究授業でも、教師のどの発問に対して5~6名(せいぜい7~8名)の子どもしか挙手しなかった。答えやすい発問でも、多くの子どもは挙手しないのである。

 なぜこのような状況になってしまうのだろうか。それは、挙手指名方式で授業をしていると、次のような意識が子どもに芽生えるからである。


・挙手しなければ指名されないので、真剣に考えなくてもよい

・いつも挙手する子に任せておけばよい


 このような授業が毎時間行われているとしたら、自分の意見をもつ子どもが育つはずがない。

 冒頭で紹介した大学院生が、子どもの精神的自立をどのように促していこうとしているのかわからないが、日々の授業を改善することが土台になることに気づかなければ、よい成果は得られないように思う。


漫言放語 №45

合宿で学ぶ

SDK代表 鈴木健二

 嬉野温泉で合宿が行われた(開通初日の西九州新幹線で嬉野入り!)。

 2019年に淡路島で合宿して以来、3年ぶりの開催である。

 合宿のよさは、参加者が一泊二日で思う存分学び合えるというところにある。

 今回も、さまざまなことを語り合い、夜遅くまで盛り上がった。

 嬉野合宿では、次のテーマを設定した。


これを学べば、必ず教師力が向上する!


 何でもいいから学べば成長するというわけではない。

 何をどのように学ぶかが重要である。

 今井むつみ氏は言う(『学びとは何か』岩波新書)。


「よい学び」を実現するためには、まず一人ひとりが自分は何を目的にして学びたいのかを考え、その目的のために最もよい方法は何かを考え、それを実践しつづける「学びの探究人」であってほしい。


 結局、自分で考えるしかないのだが、何の手がかりもないところから「よい学び」は生まれない。

 だから、合宿の冒頭で話したのは、


 成長につながる「考え方」を手に入れてほしい


ということだった。

 「考え方」を手に入れた教師は、「学びの探究人」となっていくはずである。

 合宿で一番前に座っていた二人の若い教師が印象に残っている。

 二人とも今年度採用されたばかりの初任教師だった(なんと、今回の合宿主催者A先生の中学校の教え子!)。

 その中の一人Yさんは、懇親会の自己紹介で次のように宣言した。


 次の合宿には、自分の意志で参加したい!


 今回は、恩師のA先生に誘われて参加したのだが、一日目の学びで意識が大きく変わったのだろう。

 合宿で「よい学び」を持続するための「考え方」をつかんだ二人の若い教師がこれからどのように成長していくのか楽しみである。


漫言放語 №44

夏に学ぶ

SDK代表 鈴木健二

 8月上旬、ある小学校から次のようなメールが届いた。


□ 今年度も先生に現職教育の講師をお願いできないかと思い、連絡させていただきました。前回の現職教育が教職員からとても好評で、もう一度お話を伺いたいとの声が多く、お願いした次第です。


 7月の下旬に研修会を開催した中学校からは、全職員のアンケートの結果がメールで送られてきた。

① 今日の講演会はどうでしたか

 「とてもよい」100%

② もし、2回目の鈴木先生の講演を本校で受けられるチャンスがあれば、受講したいですか

 「とても受けたい」40%、「受けたい」60%


 どちらもうれしいメールである。

 もう一度聞きたいということは、講演内容を高く評価してもらったという証拠だからである。

 アンケートの中で特に興味深かったのは次の学びである。


□ いつも保健室ではどう育てていきたいか、部活では、委員会では、とバラバラに考えていましたが、あらゆる教育活動の場で一つの目標、育てたい子どもの姿を自分の中でもっておきたいなと感じました。えこひいきをするためには、どれだけ子どもたちと積極的に関わり、見ているかが大切だと思うので、いろんな場面で、多くの子どもたちと積極的に関わることも心がけていきたいです。また、常に子どもと関わる担任の先生が目指す子どもの姿も大切にしていけるといいなと思いました。


 「学級経営・学年経営と道徳教育」がテーマの講演だったのだが、養護教諭の心に響いたことをうれしく思った。

 ここで考えておきたいことがある。それは、


自分の一学期の授業は、二学期もぜひ受けたい授業として子どもに受け止められているかということである。


 自信のない方のために、SDKではとっておきのセミナーを準備している。

 それが次の3つである。


 8月20日(土)第5回SDK全国大会

 8月21日(日)第18回感性を磨くセミナー

 8月27日(土)道徳授業オンラインセミナー


 これらのセミナーで学ぶことによって、子どもたちに待ち焦がれられる授業づくりのヒントを得られるはずである。

 子どもを大切にしたいと考えている教師にぜひ参加してほしい。

 あなたの授業は確実に進化する。


漫言放語 №43

教材開発力を高める

SDK代表 鈴木健二



 これらの写真は、大学院の授業「道徳教育の理論と実践」で提案された道徳授業の素材の一部である。段階を踏んで学ぶことによって、大学院生でも良い素材を発見し、教材化できるようになる。

 その段階とは、次の5つである。


1 指定した素材で授業プランを作成する

2 1で作成した授業プランで模擬授業を行い、検討する

3 自分で発見した素材を提案する

4 提案された素材から一つ選定し、授業プランを作成する

5 4で作成した授業プランで模擬授業を行い、検討する


 1・3・4は4~5名のグループで行い、2・5は全体で行う。

 2の授業後、課題レポートには次のような学びが書かれていた。


□ 新聞のコラムや子どもの感想文などを教材とする場合は、短い文章や十分とは言えない文脈から心情を読み取ることに難しさを感じた。そのため、教師は何をねらいとして教材を用いるのか、どの部分を抜き出して主発問とするのか、明確な思いや意図が必要となる。


 発見した素材を教材として効果的に活用するためのポイントを自分なりにとらえている。次のような学びもあった。


□ 教材が同じでも着目する言葉が一つ違うだけで、授業展開もねらいも大きく変わるというのがおもしろかった。一人では凝り固まったアイディアになってしまいがちである。だからこそ、教師同士でよりよいものを作ろうと活発な議論をすることが大切なのではないかと感じた。


 教材開発は、独りよがりになるリスクもある。「よい素材を発見した!」という思いが先走ってしまうことがあるからである。そのことに気づかせてくれるのが、他者の考え方である。そこに協同的な学びの意味がある。

 教材開発はハードルの高い作業である。しかし、このような段階を踏むことによって、これまで道徳授業をあまり行ったことのない大学院生でも、教材開発力を高めることができるようになるのである。

 SDK全国大会(8月20日:愛知教育大学)では、参加者が開発したさまざまな教材が提案される。教材開発力を高める絶好の機会となるはずである。


漫言放語 №42

議論する意味を実感させる

SDK代表 鈴木健二

 大学2年生を対象に教育学概論という授業を行っている。

 テーマは、「学級経営の基礎・基本」である。3つの基本を取り上げて授業をしているのだが、授業後の課題レポートに次のような記述があった。


□ 講義の終盤、「学級目標が必要か」というテーマでとても熱い議論が交わされた。今思い出してもそれぞれが真剣に考えや意見がぶつけており、AbemaTVで放送されても遜色ないくらいの議論になっていたのではないかと思う。それは、お互いが自分の考えをハッキリと持ったうえで、人の意見を聞き考えることが出来たからではないだろうか。今後も議論をする機会があると思うが、次は自分も加われるようにしっかり自分の意見をもち人の意見を聞いていきたい。


 「学級目標は必要か」という問いかけに対して、必要が14名、不要が1名だった。

 圧倒的に必要派が多いのに、なぜこのような熱い議論になったのだろうか。

 それは次のように展開したことも要因の1つだろう。


① まず不要派にその理由を発言させる

② 必要派にどうしたら不要派に必要であることを納得させられるか考えさせる

③ 必要派の考えを聞いて納得したかどうか不要派に問いかける


 不要派の学生がなかなか納得しなかったということもあって、必要派はさまざまな考えをぶつけてきた。こうして、たった一人の不要派が主役の授業になっていった。

 次のようなことを記述した学生もいた。


□ 学級目標が本当に必要であるか、自分の中で答えを出すことは難しいが、両方の立場からの意見を聞くことで、自分の中の考えがより深まることを感じた。今回の授業を通して、意見交換の意義はそこにあるのではないかと考えた。


 「主体的・対話的で深い学び」「考え議論する道徳」などのテーマを掲げて校内研究に取り組んでいる学校が増えているが、そのような授業を実現するために最も大切なのは、


 教師自身がそのような体験をどれくらいしているか


ということである。自分自身が体験したことがないことを子どもたちにさせることは難しい。

 教師自身が議論する意味を実感することが大切なのである。


漫言放語 №41

授業に対する期待感を高める

SDK代表 鈴木健二

ポイント1:学級経営につながる小さなきっかけをみつけていく!


 具体例として、「●●やか」に当てはまる言葉探しを行った。はじめはゲーム感覚で探し、他との交流を行った。自分の認識としてはアイスブレークとしてそこまでのものだと思っていたが、そこから鈴木先生はさらに「自分に当てはまるのはどれ?」という投げかけも提案していて、はっとさせられた。そこから自分の思考はさらに進み、じゃあ選んだ後は同じワードを選んだ人であつまるのもいいなと思った。日常にある小さな、意識していなければ見過ごすであろうことを、ここまで学級経営にいかせるのだということを学んだ瞬間だった。


 大学院における第1回目の授業(学級経営)を受けた現職学生のレポートである。

 このレポートから、次のようなことが見えてくる。


① 思わぬ学びを得ている

② 主体的な思考を促されている

③ 新たな知見を発見している


 授業でこのような手応えを感じた学生は、


今後の授業に対する期待感を高めている


ことだろう。

 大切なのは、そのような期待に応える授業を、年間通して展開していくことである。


 子どもたちは、授業を受けるために学校にやってくる。

 だからこそ、教師には、授業に対する期待感を高めることが求められる。

 新年度がスタートして3週間ほどになるが、授業に対する期待感を高めることができているだろうか。

 豊田市の校長だったF先生と、大学で偶然再会した。

 F先生は、次のように話してくれた。

 「鈴木先生が研修会で話してくださったように、道徳授業が学級経営の鍵であることを 校長として実感しました」

SDKが提案している道徳授業は、授業に対する期待感を高めるために大きな効果があることを改めて感じることができた。


漫言放語 №40

Instagramを活用する

SDK代表 鈴木健二

 SDKのInstagramは、教師の発想次第で、多様に活用することが可能である。

 ある教師は、次の3つの視点で活用していると報告してくれた。


① インスタが自分の背中を押してくれる

② 道徳授業づくりのヒントを得る

③ 子どものよさを発見する視点を得る


以下、具体的に紹介してみよう。


【自分の背中を押してくれたインスタ】

① 学びたいと思ったらいつだって学生になればいい。

 学び始める時期に早い遅いはない。だから、今頑張っている自分は遅くないと思えました。

② えびせんべいは、まだ進化できる。

 深刻な気分ではなく「えびせんべいには負けられない」と笑いながら自分の進化を見つめることができました。

③ あせっても到着時間はかわらない。

 目標がある人ほど、あせってしまいます。自分の焦りの気持ちを戒めることができました。

④ お寺の掲示板

 目の前の苦しみに対する気持ちが和らぎました。子どもたちにも気付いてほしいなと思いました。

 ※鈴木のコメント…まずは自分自身のこととして受け止めることが、子どもたちの心に響く土台になる。


【道徳授業づくりのヒントを与えてくれたインスタ】

① 車の点検時のおかし・カップラーメン

 お菓子の入れ物やカップラーメンにまで素材があるとは思いませんでした。

② 当たり前の毎日を支える力のポスター、電車のつり革の広告(その重圧)

 発問と、ねらいの視点を学ぶことができました。

③ 駅員さんの写真

 どんな行動が当たり前の毎日を支える行動になるのか、見つけるポイントを学びました。

④ 臓器の模型の配付

 道徳授業における具体物の生かし方を考えるきっかけになりました。

 ※鈴木のコメント…授業づくりのヒントを発見することが、授業づくりの幅を広げてくれる。


【子どものよさを発見する視点を与えてくれたインスタ】

① 辛麺の店員さんの明るい声

 明るい声の効果を改めて意識できました。当たり前すぎて、評価できていなかったと思います。

 ※鈴木のコメント…今まで意識できていなかったことに気づくことで、「あれども見えず」から脱することができる。


 活用する視点が多様であるほど、教師力が向上する。

 これまでのInstagramを再度見直してみることをお勧めしたい。


漫言放語 №39

役立つInstagram

SDK代表 鈴木健二

 SDKのInstagramにアップしているのは、身近なところから発見した何気ない素材である。

 素材とは何か。辞書的な意味は「もとになる材料」である。つまり、


教師の発想次第で、何かの役に立つ可能性がある素材


をアップしているということである。

 一番簡単な役立て方は、


素材をそのまま提示して、教師が補足する


という方法である。

 3月19日にアップした「困難はウェルカム」という樹木希林の言葉は、次のように活用できる。


 (「困難はウェルカム」という言葉を提示して)これは、内田也哉子さんが、母の樹木希林さんから学んだ言葉です。困難を歓迎することは、簡単なことではありませんが、内田さんは、次のように言っています。

「こういうことがあったからこそ自分が成長できた」と思えるかどうかは、心一つだっていうのは感じています。

困難なことにぶつかったときに、思い出したい言葉だなと思いました。


 より効果的に役立てたいと考えている教師にお勧めしたいのは、


「小さな道徳授業」をつくって実践する


ということである。

 3月29日にアップした素材を活用すれば、次のような授業をつくることができる。


① 「2015年に選挙権が18歳以上に拡大されました」と言って発問する。

発問1 若い人たちの何パーセントが選挙に行っていると思いますか。

② 予想を出させたあと、約29%であることを知らせて発問する。

発問2 選挙権があるのに、7割以上の人が選挙に行かなかったのはどうしてだと思いますか。

③ 考えを出させたあと、理由を一つずつ提示して音読させる。

発問3 納得できる理由はどれですか。


 新年度も、アイデア次第でさまざまな活用ができる素材をアップしていく予定である。


漫言放語 №38

学べるInstagram

SDK代表 鈴木健二

 SDKのInstagramが、1月から本格的に始動した。

 コンセプトは、次の二つである。


①  素材発見のコツが学べる

② 「小さな道徳授業」づくりに役立つ


 今回は、①について述べる。

 一時間の道徳授業や「小さな道徳授業」の教材開発を行うためには、素材が不可欠である。これまで、いろいろな機会をとらえて「素材は身近なところから発見できる」「素材発見の視点を意識することが大切である」と提案してきたが、なかなかピンとこない教師もいることだろう(こちらの教師の方が多いと思われる)。

 そこで、Instagramでは、どのようなところからどんな素材が発見できるのかを、具体的に示すことにした。だから、Instagramをフォローすることによって、


 そんなところからも発見できるのか!

 そんな素材もあるのか!


という学びを得ることができるはずである。

 これまでアップした素材は、70近い(3月12日現在)。

 どのような素材をアップしているか、いくつか紹介してみよう。

 ・駐車していた車のナンバーの横に貼られていたステッカー

 ・スーパーの床を自動的に掃除するロボット

 ・ある小学校の「あいさつ」標語の掲示板

 Instagramを始めて感じているのは、


 素材を発見する感度が高くなってきた


ということである。

 なぜ感度が高くなってきたのだろうか。

 それは、「誰かに見せる」という新たな目的意識が芽生えたからである。

 これまでは、いつか教材化できるだろうという軽い気持ちで素材を収集していた。しかし、Instagramにアップするとなると、毎日のように素材を発見しなれければならなくなる。このプレッシャーが感度を高めるのである。

 興味のある人は、ぜひフォローしていただければと思う(sdk_since2019)。



漫言放語 №37

子どもに学ぶ

SDK代表 鈴木健二

 毎年2月ごろ、ある小学校の6年生に道徳授業を行っている。

 中学校に向けて、今後の行動の指針になるような授業をするようにしている。

 今年取り上げた教材は、


 自分との約束を破らない


という為末大さん(元陸上選手)の言葉だった。

 子どもたちに、中学生として成長していくために、自分とどんな約束をしたいかを考えさせる授業である。

 まず問いかけたのは、


自分との約束を守ることが大切なのか


ということだった。  

 子どもたちのほとんどは「大切だ」という考えだった。

right

 そこで、なぜ大切なのかについて考えを深めさせるために、自由に意見交流をしてもらった(写真)。

 授業の終盤、中学生として成長していくために、自分とどんな約束をしたいか考えさせているとき、一人の子ども(A君)が目に留まった。自分との約束を一つも書いていないのである。

 話を聞いてみると、次のようなことがわかってきた。

 A君は、授業の最初の問いに対して、自分との約束を守ることは大切ではないと考えていた。しかし、授業は、自分との約束を守ることは大切であるという方向で進んでいる。だから、大切ではないと考えているA君にとっては、納得のいかないまま、自分との約束を書かなければならないという状況になっていたのである。

 A君には、次のように言った。

「あなたは、大切ではないと考えたんだよね。周りの友だちや先生が言っていることであっても納得できない、ということだよね。それは、周りの考えに左右されず、自分の考えを貫きとおすという自分との約束ととらえることはできないかな」

 この話に頷いたA君は、ようやく自分との約束を書き始めた。

 いつの間にか、教師の論理で授業を進めてしまっていたことに気づかせてくれたA君に学ばされた貴重な時間となった。



漫言放語 №36

授業に対する期待感を高める

SDK代表 鈴木健二

 第15回感性を磨くセミナーをオンラインで開催した。

 今回のテーマは、


授業に対する期待感を高める


であった。

 教師の仕事のメインは、授業である。

 その授業に対して、子どもが期待感をもっていなかったとしたら、それは、プロの教師としての役割を果たしているとは言えない(客が料理に期待しないレストランがあったとしたら、そのシェフはプロとは言えないだろう)。

 期待感を高めるためには、3つのステップがある。


ステップ1 学級びらきにおける最初の話で教師に対する期待感を高める

ステップ2 教科書を活用して教科に対する興味関心を高める

ステップ3 最初の単元で学級の友だちと学ぶおもしろさを感じさせる


 「学級びらきにおける教師の話は、最初の授業である」という意識をもちたい。ここで、今年の先生の授業はおもしろくなりそうだぞ、という期待感を高めることができたら、スムーズな学級経営のスタートを切ることができる(ステップ1)。

 セミナーでは、教科書の表紙をもとに、参加者同士がさまざまなアイデアを交流し、授業に対する期待感を高めるとはどういうことなのかを学び合った(ステップ2)。

 ステップ3については、事務局の一人が、教科書を効果的に活用した理科の授業実践を提案した。

 参加者からは、学びのレポートや感想などが次々と寄せられている。

 初めて参加したMさんの感想を紹介する。


□ 感性を磨くセミナーを受け、衝撃を受けました。鈴木先生の授業は学級経営作りと密接に関係し、学級開きの出会い、教科書との出会い、単元との出会いを聞き、新年度からのやる気が出てきました。いかに何もしていなかったか振り返ることになりました。 …略… 私は今まで何と消極的で、アウトプットしていなかったのか、とにかくこれではいけない、変わらないとと強く思いました。


 「変わらないと」という強い思いをもったMさんの4月のチャレンジが楽しみである。

 難しいのは、授業に対する期待感を持続していくことである。

 そのためには、さらに学び続けるしかない。

 第16回感性を磨くセミナーは、4月9日(土)に道徳授業づくりをテーマに開催予定である。



漫言放語 №35

板書を構造化する

SDK代表 鈴木健二

 大学院生の道徳授業を参観した。

 『なぜか話しかけたくなる人 ならない人』有川真由美(PHP研究所)という書籍の表紙だけを使った授業だった。

 表紙だけを使って一時間の道徳授業を構成できたところに大きな成長を感じた。

 授業経験の少ない大学院生でも、道徳授業づくりの基礎・基本(SDKで提案している4つのポイントなど)をしっかり学ぶことによって、自分で教材を開発して授業を構成するという高度なことができるようになるのである。

 もちろん、課題もまだまだ残されている。

 指摘した課題の一つが、


板書を構造化する


right

ということだった。

 右に示したのは、大学院生の板書の一部である。

 多くの道徳授業で見られるように、発問と子どもの意見が羅列的に書かれる板書になっている。

 子どもたちの発言を一つ残らず書いていくのが良い板書であるかのような思い込みがあるのかもしれない。

 しかし、そのような板書では、子どもの新たな思考を促すことは難しい。

 板書の大切なポイントは、


その教材で考えさせるべき内容を焦点化して構造化する


ということである(詳しくは拙著『新しい道徳授業の基礎・基本』日本標準を参照)。

 このポイントから、改めて次のことが見えてくる。


板書を構造化するには、その教材ならではのねらいを設定することが重要である


道徳授業のあと、次の3点をもとに板書を振り返ってみてはどうだろうか。


① 問題意識が高まる板書だったか

② 新たな考えが促される板書だったか

③ 本時の重要な学びが明らかになる板書だったか



漫言放語 №34

現代的な課題に取り組む

SDK代表 鈴木健二

 SDK定例会が2年ぶりに対面で開催された。

 オミクロン株感染拡大の影響で、当初予定していた参加者のキャンセルもあり、少人数での開催となったが、興味深い授業プランがいくつも提案された。

 1月定例会のテーマは、


現代的な課題をテーマにした「小さな道徳授業」の開発


である。

 次のような現代的な課題が取り上げられた。


人権、環境、生命、差別、情報


 定例会参加者は、授業プランだけでなく、プレゼン用スライドも作成する。教材をどう提示して、どんなタイミングでどのような発問をするかを検討することが重要だからである。

 今回は、少人数だったこともあり、参加者全員がスライドを使って、模擬授業を行うことができた(通常は、参加者からベストプランに選ばれたものだけがプレゼンをする)。

 定例会の流れは、以下のとおり。


①  模擬授業

②  模擬授業終了後、授業プランの配付

③  参加者によるコメントの交流

④  鈴木による辛口コメント


 素材も、ポスター、動画、新聞記事、テレビ番組など、バラエティーに富んでいて、実に刺激的な時間となった。目を引いたのは、参加できなくなった会員の一人が「授業プランだけでも」と送付してきたことだった。このような意欲的な会員が存在することをうれしく思った。

 

 提案された授業プランを検討して感じたのは、


取り上げた課題に対する多様なとらえ方を学んだ上で教材化すること


が重要であるということである。

 多様なとらえ方を学ばないまま教材化すると、素材の否定的な面に気づかず、肯定的な面だけを取り上げてしまうなど、偏った認識を子どもたちにもたらすことがあるからである。



漫言放語 №33

追究するテーマをもつ

SDK代表 鈴木健二

 40年近く続けている教育サークルがある(例会は月一回開催)。

 参加する条件は、たったの1つ。


提案資料を持参する


 これだけである。

 しかし、この条件が重要である。

 人は、何らかのプレッシャーがないと、なかなか本気になれない。この条件があることによって、提案に値する実践をしなければならなくなる。だから、例会に毎月参加することを継続することによって、確実に教師としての資質が向上していく。

 若いころは、月2回行っていたが、毎回、ファイル一冊分の提案資料が出された。

 この積み重ねが、教師としての自分を鍛えてくれた。

 先日、新年最初のサークル例会に参加した。

 提案された資料は以下のとおり。


① 校長通信№99~101『協同』「次年度に向けて①~③~学級づくり編~」

② 令和3年度学校経営ビジョン推進のためのPDCAサイクル

③ 道徳授業改革セミナーin熊本での学び

④ 道徳授業奮闘記№1 教材「ロレンゾの友達」を使った研究授業に向けて

⑤ 生徒指導通信№11「法律研修~保護者クレーム&いじめへの法的対応~」

⑥ 国語科研究通信№129『読解再考』「漢字プリントやり直しシステム」

⑦ 国語科研究通信№130『読解再考』「一字読解で基礎読解力を育て、テストの正しい答え方を養う」

⑧ 大学の授業を創る№15「とっておきの話で鍛える」

⑨ 小さな道徳授業プラン「気づいていますか?」

⑩ 3学期の学級経営方針「○○○ときは、前進している」

⑪ プレゼンによる提案「質の高い作品を生み出すステンシル版画の指導」


 気づかれた方もいると思うが、№がついている提案資料が目につく。これは、


継続的に追究するテーマをもっている


ということである。

 積み重ねることによってしか、見えてこないものがある。

 学校経営をとことん追究する。国語科の指導をとことん追究する。

 そして、それを文章化して提案する。その先に何かが見えてくるのである。



漫言放語 №32

磨くということ

SDK代表 鈴木健二

 新年早々の新聞のコラムに次の言葉が紹介されていた(『折々の言葉:2252』朝日新聞2022年1月4日)。


磨くということは、何かと何かを擦り合わせること。擦り合わせないと磨かれない


 今年も、熊本の道徳授業改革セミナー(1月8日)から仕事がスタートした。

 このセミナーは、一方的に話を聞くのではなく、参加する教師がお互いの考えを擦り合わせ、磨き合う貴重な場である。

 今回は、次のようなテーマで話をした。


① 道徳授業づくりレッスン

② 素材からの教材作成演習

③ 道徳模擬授業


 ①では、道徳授業づくりの重要なポイントの1つである「問題意識の高め方」を取り上げた。学習内容に対する問題意識が高まってこそ、真剣に考えようとするスイッチが入る。教科書教材をいくつか活用して、参加者のアイデアを擦り合わせ磨き合った。

 ②では、1つの素材をどのように教材化していくかを検討した。同じ素材でも、それぞれの教師の考えによって、まったくちがう授業になる。そのおもしろさを体感することよって、教師の感性が磨かれていく。取り上げた素材は、あるお笑い芸人のツイッターである。教師自身がおもしろいと思った素材を教材化することが、子どもの心に響く授業に近づく第一歩である。

 ③では、新しく開発した教材で参加者を相手に模擬授業を行った。模擬授業のメインとなる素材は、ある本の表紙である。この表紙に新聞の投稿などを組み合わせて授業を構成した。参加者がどのような意見を出すのか、その意見をどのように深めていくのか、私と参加者が磨き合う刺激的な時間となった。

 次に示すのは、②の講座における参加者の学びである。


□ 演習の素材を1時間に広げるとき、「いじりといじめの境界線とは何だろう?」と疑問を感じたら、なかなかアイデアが浮かばなかった。この疑問の感覚が補助資料の必要性なんだなと思った。もっと自分の感覚を信じて、自分が知的欲求を満たすように収集していくことが大事だと思いました。


 教材に対する感覚が磨かれていることがうかがえる。

 セミナーでは、参加者同士が磨き合える場をできるだけ設定するようにしている。

 とは言え、単発的なイベントに参加するだけでは、大きな成長は望めない。

 大切なことは、持続的に磨き合う場をもっているかどうかである。

 SDKでは、全国大会、定例会、「小さな道徳授業」ゼミ、機関誌『談論風発』の発行、メールマガジンの配信など、今年も会員が持続的に磨き合える場をできるだけ多く設定していく予定である。

 成長を願う多くの教師に参加していただければと思う。



漫言放語~12月~その3

教師の意識を変える

~ある小学校の研修会から~

SDK代表 鈴木健二

 2学期の終業式の午後、ある小学校で道徳授業づくりの研修会が開催された。

 ようやく2学期が終わり、教師には疲労がかなり蓄積している時期の研修会である。こちらも疲れが吹き飛ぶような話をしなければならないと気合いを入れた。

 研修会のテーマは、「道徳授業づくりの基礎・基本」である。

 道徳授業づくりの基礎・基本を身につけるための大切なポイントが4つある。この4つのポイントを理解してもらうために、低学年の教科書教材をもとに、「授業づくりアイデアシート」(拙著『中学校道徳 ワンランク上の教科書活用術』日本標準等を参照)を活用しながら、授業プランを創るという研修を行った。

 4つのポイントの中で最も重要で、だからこそ難しいのが、


その教材ならではの「ねらい」を設定する


ということである。

 その教材ならではの「ねらい」を設定するためには、教材を深く読まなければならない。

 しかし、どうすれば教材を深く読むことができるのかがわからない教師が多い。そのような実態の中で難しい話をしても、なかなか伝わらない。そこで、今回伝えたのは、


気になった言葉に着目する


ということだった。教材を読んだら、誰にでも一つや二つは気になる言葉が出てくる。それをそのままにしておくのではなく、


気になった理由を考える


のである。これが、教材を深く読むための第一歩である。いくつかの気になる言葉を検討していくうちに、子どもたちに考えさせたい部分もだんだん焦点化されてくる。このような作業をしているうちに道徳授業がおもしろくなりそうな予感がしてくるのである。

 研修会が終わったあと、6年生担任をしているという中堅の女性教師が話しかけてきた。

 彼女は、開口一番次のように言った。

 「私は今まで、子どもたちにとって当たり前すぎる授業しかしてこなかったことに気づかされました。あのような授業では、子どもたちが発言しないのも当然だと思いました。これから、授業を変えていきたいです」

 研修会場から職員室までの長い廊下で、熱く語り続ける姿を見て、私は言った。

 「あなたのように受けとめてくれる教師がいただけで、この小学校に来たかいがありました」

 立派な理想論を語ったとしても、教師自身が自分の授業を変えたいと思わなかったとしたら、その話にあまり意味はない。大切なことは、


授業を変える一歩を踏み出そうとする意識を高められるかどうか


なのである。

 杉田敏氏は、「コミュニケーションの最終目的は『相手にアクションを取ってもらう』ということです。こちらのメッセージや意味を相手に伝えるだけでは不十分なのです」(『人を動かす!話す技術』PHP新書)と言っている。

 先の女性教師が、3学期の道徳授業づくりに向けて一歩踏み出したくなったとしたら、こんなにうれしいことはない。



漫言放語~12月~その2

学ぶ場をもつ

~支部例会に参加する意味~

SDK代表 鈴木健二

 11月に開催されたSDK宮崎支部の例会に参加した。

 代表のF氏を中心に、毎月例会が行われている。

 次のような内容である。


① 各自が道徳授業の実践記録や授業プランを持ち寄る

② 提案された実践記録や授業プランについて議論する


 このような例会を定期的に行うことには大きな意味がある。

 ①について。

 毎月の例会に実践記録や授業プランを持っていくためには、提案に値する実践を行う必要がある。この意識をもつだけでも日々の実践が意図的になる。

 かつて、野口芳宏氏は、日々の授業に追われて実践するだけの教師を「実践埋没型教師」と言っていたが、実践だけを何年繰り返しても授業の質は高まらない。定期的に提案する場があってこそ、力量が高まる。だからこそSDK宮崎支部のメンバーは、全員が毎回必ず実践記録や授業プランを持ち寄る。

 当たり前のことであるが、支部例会に参加するときには、私も授業プランなどを持参する。今回は、「素材を収集する~その1~」(『道徳授業通信MyPaceⅣ』)を提案した。

 ②について。

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 実践記録や授業プランを作成しても、それについて議論をする場がなければ、独りよがりの実践になってしまう。議論の場では、経験年数も肩書きも関係ない。メンバーが対等に率直に意見を述べ合うことによってこそ、新たな気づきがいくつももたらされる。

 今回の例会でも、提案された授業プランに思考を刺激されて、さまざまなアイデアが浮かんできた。

 

 教師としての力量を高めるために、本を読む、研究会やセミナーに参加するなど、いろいろな学びをしている教師は多いことだろう。 しかし、本を読んだりセミナーに参加したりするだけでは、それほど力量は上がらない。

 自分の実践を整理・分析して文章化し、それをもとに仲間と切磋琢磨する場が必要なのである。

 支部例会に参加する意味はそこにある。



漫言放語~12月~

素材を発見する旅

SDK代表 鈴木健二

 11月上旬、G高等学校を訪問した。大学と高校の連携事業で、教育関係の仕事に興味のある高校生に授業をするためである。しかし、高校までの道のりが結構遠い。

 自宅から最寄りの駅まで15分ほど歩き、そこから電車の乗り換えが3回。さらに高校まで15分ほど歩く、という約2時間の旅程である。

 しかし、このような小旅行は素材発見の絶好の機会となることも多い。

 「どのような素材と出合えるだろうか」とわくわくしながら出発した。

 この旅で最初に出合った素材は、K駅の構内にど~んと掲示してある広告だった。

 次の言葉がなかなかよい。


感じるチカラで、世界がトキメク。


 この言葉をながめていると、次のような疑問が次々に浮かんでくる。

 A 「感じるチカラ」とはどのようなチカラだろうか。

 B なぜ「感じるチカラ」で世界がトキメクのだろうか。

 C 「感じるチカラ」で学級をトキメめかせるにはどうしたらいいのか。

 D 「感じるチカラ」で授業をトキメめかせるにはどうしたらいいのか。

 世界をトキメかせるためには、感性を磨くことが大切であることを改めて感じさせられた。旅の序盤から、とてもよい素材と出合わせてもらって気持ちが高まる。

 K駅でJRに乗り換えた。

 JRはめったに乗らないので、いつもの電車とはちがう素材との出合いがあるかもしれないと期待しつつ乗り込んだ。

 あった!

 どこかで見かけたことのあるポスターだったが、写真を撮った。

 次の言葉が心に響く。


 天才だけでは、救えない


 このポスターから考えさせられるのは、


どんな天才も、協力してくれる人がいなければ、よい結果は得られない


ということである。

 学級には、「あいつ(みんながすごいと思っている子ども)がいるから任せておけばいい」などと考えている子どもが必ずいる。

 そのような他人任せの思考に陥っている子どもを刺激できそうである。

 こんな感じで、2時間で6つの素材を発見した。

 「素材を発見するぞ!」という気持ちが、遠い道のりを素敵な時間に変えてくれるのである。



漫言放語~11月~その2

「小さな道徳授業」の可能性

SDK代表 鈴木健二

 思わぬところから講演の依頼がありました。

 三重県栄養教諭・学校栄養職員協議会です。

 講演テーマは、


思考のスイッチを入れる授業づくりの基礎・基本


です。なぜ栄養教諭がこのテーマ?と思ったのですが、食育の充実を図るためには、授業力を高めることが必要なのだろうと考え、引き受けることにしました。

 栄養教諭なので、国語や算数の授業づくりの話をしてもピンとこないでしょうし、食育の授業に活用することも難しいだろうと考え、次のようなコンセプトを設定しました。


 

 食育の授業づくりに一歩踏み出したくなる講演を創る


 この講演によって、栄養教諭の授業づくりに対する思考のスイッチを入れることをめざしたのです。では、どうしたら一歩踏み出したくなるのでしょうか。あれこれ考えた結果、次の3つのポイントをもとに講演を構想することにしました。


  ① 「自分もやってみたい」と思えるようなおもしろい食育授業プランを提案する

  ② 「自分でもつくることができそう」と思える授業づくりのステップを提案する

  ③ 栄養教諭の役割をさらに充実させられる方法を提案する


 ①で提案したのが「小さな食育授業」です。

 「小さな道徳授業」の食育バージョンです。

 この提案を栄養教諭の方々は次のように受け止めてくれました。


□ 食育を行っていく上でたくさんのヒントを教えていただきました。小さな食育を行っていく。身近で身の回りにもたくさんの教材がある。そこから、子どもたちが思考のスイッチが入るような問いかけを考える。私自身もこの研修会の中で色々考えることができました。一枚のポスターやコラムからもこんなに色々考えることができると思いました。これから、アンテナを高く、取り入れられるものは、取り入れて、子ども主体の授業づくりを考えていきたいです。


 「小さな道徳授業」を食育にアレンジした提案が、栄養教諭の方々の心を動かしたのです。「小さな道徳授業」には、さまざまな教科で活用できる可能性があることを改めて実感した講演会でした。


漫言放語~ 11月~

オンライン模擬授業への挑戦

SDK代表 鈴木健二

 沖縄県のある教育委員会主催の研修会がコロナ禍のため、オンラインになりました。中学生を対象に授業も行う予定でしたが、それもできなくなってしまいました。しかし、どうしても先生方に授業を体験させたいという教育委員会の強い要望により、オンラインによる教師対象の模擬授業を以下のような形で実施することになりました。

① オンラインによる50分間の模擬授業

② 模擬授業の教材は、その地区の中学校で採用している教科書(2学期以降の教材)から選定

③ 受講するのは、小学校から高校までさまざまな校種の教師


 授業プランを提示しながら模擬授業風に解説することはかなり行っていますが、完全な模擬授業という形でやったことはほとんどありません。しかも、今回はzoomを使ってのオンライン模擬授業です。

 中学1年から中学3年までの教科書を検討した結果、模擬授業の教材として選んだのは、「ぼくの物語 あなたの物語」(この教材の原典は絵本なので、興味のある方は読んでみてください)。

 この教材を選んだのは、次のような理由からです。


① 人種や肌の色をどう考えるかという難しいテーマの教材を、どのように授業するか提案したい。

② 教科書教材の新たな活用方法を開発したい。


 研修会後、参加者からは、次のような感想が寄せられました。


 

□ 道徳教育の奥深さをさらに学ぶことができて感謝です。今まで道徳の教科書を工夫もせずに活用していたことが恥ずかしいです。同じ教材でも提示や指導方法を変えるだけで、見違えるような指導ができるのだとわかりました。今日はありがとうございました。

□ 模擬授業を受けることで、実際に授業内容に入り込むことで実感することができた。教材によって授業づくりを行うということをしっかりおさえていきたい。「何を考えさせたいか」ということ意識し、焦点化していきたい。

□ 鈴木先生の模擬授業は、思考しやすく楽しかった。来週の授業を考えながら模擬授業を受けることができて参考になりました。


 制限された条件の中であっても、どれだけ質の高い授業を提供できるか、そのために必要とされる教師の力量は何なのかなど、新たな発見がいくつもあった研修会でした。

 研修会で一番学ぶのは講師自身なのだ、ということを改めて感じる貴重な機会となりました。


漫言放語~ 9月~

9月からの学級経営に生かす道徳授業

SDK代表 鈴木健二

 「学校行きたくない」はSOS

 8月下旬、こんな見出しの記事が掲載されました(朝日新聞2021年8月20日)。

 記事によると「小中高生の自殺が、過去最多だった昨年を上回るペースで増えている」ということでした。

 子どもたちにとって、学校が行きたくない場所になっているとしたら、実に残念なことです。私たち教師は、このような実態に対して何ができるのでしょうか。

 そこで、「第12回感性を磨くセミナー」(オンライン)を、次のようなテーマで開催しました(8月末)。

子どもの成長を促す学級経営の基礎・基本~9月からの学級経営を充実させよう!~

 私が特に主張したのは、

学級に対する安心感をどう高めるか

ということです。学級に対する安心感が低いからこそ、「学校に行きたくない」と感じる子どもたちがいるのです。だから教師の役割は、どの子にとっても安心感のある学級づくりをするということです。

 

 学級に対する安心感を高めるには、道徳授業を効果的に活用することがポイントの一つとなります。そこで、提案したのが、東京オリンピックのスケボー競技の記事を素材として開発した道徳授業です。

 毎回参加しているS君からは次のような学びのレポートが送られてきました(抜粋)。


 休み明けのたるみきった脳みそに「喝」を入れることができる充実した時間でした。

 まず、鈴木先生の講座ですが、学級経営の基礎・基本を三つの視点「教師の信頼感、学級への安心感、授業への期待感」で整理していることが大きいと思います。

 今回は、「教師の信頼感」を基盤として、「学級の安心感」につながっていくという関係づけもされていて、知識の構造化が促されていました。

 授業プランについても、まず、参加者に考えさせて、その上で鈴木先生の授業プランを提示されるので、思考をくぐらせている分、ガツンと印象づけられ、他に応用できる学びにつながっていくのだろうなあと感じました。

 今回も、「そうきたか!」と目からウロコで、「より焦点化したシンプルな授業展開」という授業づくりの思考フレームをゲットできました。

 このような学びが、9月からの学級経営の充実につながっていくのです。


 今回のセミナーで目を引いたのは、海外からの参加者でした。コロナ禍が続く中で、やむを得ずオンラインという形で開催していますが、オンラインだからこそ海外からも気軽に参加できるわけで、コロナが収束しても継続していく意味があると考えています。


漫言放語~ 8月~

ものの見方・考え方を深める

~全国大会における学びから~

SDK代表 鈴木健二

 トヨタの車検の記事を例に挙げ、目的をまちがうと本末転倒になるという話がありました。この話はすべての授業につながると改めて感じました。子どもの学びの姿(どのような変容があったか)をねらいに迫るものとするために、教材分析力を高めることが不可欠ということがよく分かりました。教材分析では、教材の内容ばかりに焦点がいっていたが、「何を考えさせたいのか」と様々な疑問を出す中で見極められるようにしていきたいです。

 第4回SDK全国大会(8月9日開催)の参加者の感想です。

教科書教材を効果的に活用しよう~教材分析力を高める~

という大会テーマで開催しましたが、参加者の深い学びにつながったことが伝わってきます。

 道徳授業では、子どもたちのもっている認識がどのように変容したかが重要です。すでにもっている認識をなぞるような授業では、何の学びも生まれないからです。しかし、子どもの認識の変容を促すことは簡単ではありません。そこで大切になってくるのが、教材分析力です。教材分析力とは、

その教材でどのような認識の変容を促すことができるかを見抜く力

です。

 教材分析力を高めるには、教師自身が「ものの見方・考え方」を深める努力をすることが必要不可欠です。基調講演では、「ものの見方・考え方」を深めるための3つの提案をしましたが、素材の一つとして取り上げたのが、冒頭の感想に取り上げられた新聞記事でした。

 新聞記事も漠然と読んでいては、「ものの見方・考え方」を深めることはできません。

 どのように読むことが大切なのかを理解して読んでこそ、「ものの見方・考え方」が深まっていきます。世の中のできごとを自分なりの視点でとらえるという地道な積み重ねが、教材分析力を高めることにつながっていくのです。

 もう一つ感想を紹介しましょう。


ものの見方・考え方を深めるために、自分自身がその努力をしているかどうか反省しました。地道な努力がまだまだ足りないので、小さな道徳授業づくりをもっとがんばりたいと思います。

 本気で道徳授業に取り組んでいる全国の仲間からの刺激によって、自分自身の課題も見えてきます。全国大会における学びの成果は、今後の道徳授業づくりに大きく生かされていくことでしょう。

※『学級経営に生きる小さな道徳授業』第2巻(日本標準)が発売されました。2学期からの学級経営に役立つ授業プランが満載です。ぜひご活用ください。



漫言放語~ 7月~

教材分析力を高める

SDK代表 鈴木健二

 コロナ禍がなかなか収まりませんが、今年度も各地の小学校や中学校、教育委員会等に招かれて、道徳の研究授業参観・指導助言、講演会などを行っています。

 道徳授業を参観して大きな課題だと感じるのは、


その教材ならではの「ねらい」が設定できていない


ということです。一般的な「ねらい」を設定してしまうと、授業での学びが浅いものになってしまい、子どもたちの心に残りません。

 なぜ「ねらい」の設定がうまくいかないのでしょうか。

 原因ははっきりしています。それは、


教材分析力が弱い


 ということです。その教材でどこが最も重要な部分なのかが読み取れなければ、子どもの認識の変容を促す的確な「ねらい」を設定することはできません。

 では、どうしたら教材分析力を高めることができるのでしょうか。

 重要なのは、

教材を批判的に検討する

ということです。教材分析とは、教材を批判的に検討し、重要な部分を見抜くということなのです。

 教材分析力を高めるのは、少しハードルの高い取組です。しかし、各学校の道徳授業を検討することによって、教材分析力を高めるためのステップが少しずつ明らかになってきています。

 そこで、8月9日(月)に開催予定の新しい道徳授業づくり研究会(SDK)第4回全国大会(会場:愛知教育大学)では、次のようなテーマを設定しました。

教科書教材を効果的に活用しよう~教材分析力を高める~

 基調講演では、このステップをできるだけ活用しやすい形にして提案したいと考えています。さらに、道徳授業に意欲的に取り組んでいる小中学校教師から、小学校低学年、中学年、高学年、中学校の教材をもとに、教材分析力を高めるための実践的な提案が行われます。

 この夏、教材分析力を高めて、2学期の道徳授業の質を高めていきましょう(なお、参加者数を限定していますので興味のある方は、早めの申し込みをお願いします)。



漫言放語~ 6月~

「小さな道徳授業」で協調性を育てる

SDK代表 鈴木健二

 大学院では、学級経営の授業を3名の教師で担当しています。

 K先生が担当した授業では、「子ども同士の葛藤と学級内不和」がテーマとして取り上げられました。「対人葛藤」(人々の間の利害や意見の対立・不一致のことで、「個人の目標が他者の行動によって妨害された状態」)をキーワードに授業が進められましたが、その中で、次のような話がありました。


□ パーソナリティの5因子モデルのうち、協調性が高い個人は、他者との肯定的関係を維持するよう動機づけられているため、他者の利益を考慮した対人葛藤方略を用いる。


 協調性が高いのですから、「他者の利益を考慮した対人葛藤方略を用いる」のは当然のことでしょう。

 しかし、このような知見を知っているだけでは、学級経営をよい方向に向かわせることができません。大切なことは、 


協調性の高い子どもをどう育てるか。


ということです。

 ここで役立つのが、「小さな道徳授業」です。

 4月の漫言放語で紹介した『学級経営に生きる小さな道徳授業』(日本標準)には、「友達を大切にする」というテーマで、10本の授業プランが掲載されています。

 「すなおに言える?」という授業プランでは、ある公民館に掲げられていた次の標語を素材として活用しています。


「ありがとう」「ごめんなさい」

すなおに言える みなとっ子


 この標語をもとに「2つの言葉が素直に言える学級にするにはどうしたらいいか」を子どもたちと考えていく授業です。

 何かあったときに、「ありがとう」「ごめんなさい」が素直に言える子どもたちが増えていけば、協調性の高い学級に育っていくことでしょう。

 「小さな道徳授業」は、5~10分程度で実践できるので、朝の会などを利用して、他の授業プランも活用していけば、「友達を大切にする」意識が少しずつ育ち、学級内不和も発生しにくくなるでしょう。また、学級内不和が発生したとしても、よりよい解決方法を子どもたちが考えていく学級になっていくはずです。

 子どもたちが学級に慣れてきて、気持ちも緩み始めるこの時期、「小さな道徳授業」を活用して学級経営を充実させていきましょう。



漫言放語~ 5月~

学級経営の節目で「小さな道徳授業」を生かす

SDK代表 鈴木健二

 新学年がスタートして一ヶ月あまり、子どもたちの様子はいかがでしょうか。

 ゴールデンウィークもあったので、少し気が緩んでいる子どもたちがいるかもしれませんね。

 学級経営が気になり始めたときに活用したいのが「小さな道徳授業」です。

 4月の漫言放語で、『5分でできる「小さな道徳授業」』第1巻(日本標準)を紹介しましたが、全国各地の小中学校で活用され始めています。

 そこで、SDKでは、学級経営の充実にさらに役立ててもらおうと、第2巻の執筆に取りかかっています。

 今回のテーマは、


 学級経営の節目で活用する「小さな道徳授業」


です。

 学級経営には、次のようなさまざまな節目があります。


・新学年スタートの時期(学級びらき)

・ゴールデンウィーク明け

・6月の中だるみの時期

・夏休み前 など…


 これらの節目で、子どもたちの意識をどう高めていくかによって、学級経営の状況は大きく変わっていきます。学級担任であれば、このような節目をうまく乗り越えて、よりよい学級をつくっていきたいと考えていることでしょう。

 そんなときに役立つのが、「小さな道徳授業」です。

 第2巻には、学級経営の節目で活用できる「小さな道徳授業」を何本も掲載予定です。

 例えば、子どもたちが学級に慣れてきた今の時期に役立つ「小さな道徳授業」としては、「いい笑いと悪い笑い」という授業プランがあります。


・「いい笑いと悪い笑い」にはどんなちがいがあるのでしょうか。

・今の学級には、どちらの笑いが多いのでしょうか。

・子どもたちは、どんな笑いが満ちあふれる学級にしたいと思っているのでしょうか。


 この授業によって、新学年になって一ヶ月あまりが過ぎた自分たちの学級の状況を見つめさせ、今後どんな学級にしていきたいかを考えさせることができます。

 ほとんどの子どもたちは、「いい笑いに満ちた学級にしたい」と考えることでしょう。そしてそのような学級にするために、自分にできることは何かを考え始めることでしょう。

 学級経営の節目で「小さな道徳授業」を活用して、すばらしい学級をつくっていきませんか(第2巻は夏に発売予定です。第1巻と合わせて活用すればさらに効果が高まります)。



漫言放語~ 4月~

「小さな道徳授業」で素敵な学級をつくる

SDK代表 鈴木健二

□ 私が読んでも、子供とのちょっとした会話に役立ちそうな素敵な本ですね。全国の先 生がこちらを使って、授業や日常のなかで児童・生徒さんとの交流が深まり、心の成長 につながると素敵だなと思いました。

□ 「いいなあ」と感動した本の表紙といってもらえて大変光栄です。小中学校の教師の先生向けの本だと思いますが、私たち一般人が読んでも面白いです。日々、小さな発見を写真に撮ったりしてストックしたいと思いました。こんな道徳の授業なら、大人になっても受けたいです。

□ 書籍全体に目を通してみると、教員ではない大人が読んでも十分ためになると感じました。やはり、テーマが「道徳」だからでしょうか。昨今、企業においてはSDGsが重要視されつつありますが、日々の仕事にも道徳観をもって臨んでいければと思います。 (言うのは簡単ですね)


 これは、最新刊『学級経営に生きる「小さな道徳授業」』第1巻(日本標準)に寄せられた感想の一部です。この感想を書いたのは教師ではありません。授業の素材を提供していただいた一般の企業等の方々からの感想なのです。

 特にうれしかったのは、次の言葉です。


こんな道徳の授業なら、大人になっても受けたいです。

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 一般の大人が読んでも魅力的な道徳授業に見えるからこそ、子どもたちの心に響くのです。

 本書には、誰でもすぐに活用できる「小さな道徳授業」プランが42本掲載されています。 その中の一つに「心もピカピカ」という授業プランがあります。

 ある小学校に掲示されていたスローガンを活用した授業です。「心もピカピカ」という言葉の検討をとおして、「心がピカピカするとはどういうことなのか」「自分の心はピカピカしているのか」を考え、話し合います。結論を出すのではなく、一人ひとりが「心もピカピカ」について自分なりの考えをもつようにしていくのです。

 4月の学級のスタートにあたって、「一人ひとりの心がピカピカする学級にしたい」という意識が高まれば、素敵な学級への第一歩を踏み出すことができます。

 冒頭で紹介した「全国の先生がこちらを使って、授業や日常のなかで児童・生徒さんとの交流が深まり、心の成長につながると素敵だな」という感想のように、本書の授業プランを活用して、素敵な学級がたくさん生まれることを願っています。



漫言放語~3月~

子どもたちを勇気づける道徳授業

SDK代表 鈴木健二

□ 私はコロナ世代にあてはまっている。将来、このコロナ世代という言葉で「コロナ世代だからしょうがない」などと言われたくないと思う。この授業で、この言葉を勲章にできると思った。私はコロナ世代ということだけでなく、他のことにもあてはまると思った。例えば、あきらめないということ。今はこの言葉がいい意味ではないと思われてると思う。でも勲章にできるということは、あきらめずに進んでいけばいいということだと思います。私もあきらめず、これからも頑張りたいと思います。


 ここ数年、ある小学校で6年生を相手に授業をしています。

 卒業を前にした6年生に、これからの生き方につながる授業をしたいという思いを込めています。

 冒頭で紹介した感想は、2月に授業を受けた6年生が書いたものです。

 授業で活用した素材は、「『コロナ世代』の呼び名 勲章に」という朝日新聞の投稿です。投稿したのは、日高さんという小学生です。

 日高さんのメッセージで一人でも多くの小学生を勇気づけたい!と思って創ったのがこの授業です。

 授業で6年生に問いかけたのは、


「コロナ世代」の呼び名を勲章にすることができると思いますか?


ということでした。

 子どもたちは、できるかできないかで熱い議論を繰り広げました。

 さらに次のように問いかけました。


あなたは、「コロナ世代」の呼び名を勲章にするために、何から始めますか?


 この授業を受けた子どもたちは、次のような感想も書いてくれました。


□ コロナという大変な世の中になってしまったけれど、もともと地球はもっと大変で残酷なことがあると、私たちの世界に受け継がれているから、そんなこともあると私は思う。辛いことをがまんして、努力していたら、「あ、そういえばこんなこともあったな」と思える日が私は来ると思う。あと地球は40億年もつと言われていて、その中で私たちがいたのは、つい二千年くらい前なんだから、たぶん、もっとこの先にも、こわいことはくると思うけど、そうであっても、私は生きていたいと思う。


 子どもたちの学びを読んで、勇気づけられたのは、自分の方だったことに気づかされました。この子どもたちは、きっとコロナ禍を乗り越えてたくましく成長していくことでしょう。



漫言放語~2月~

「小さな道徳授業」の質を高める

SDK代表 鈴木健二

 F小学校(私が研究に関わっている学校)で、興味深い研修会が開催されました。

 「小さな道徳授業」づくりの研修会です。

 F小学校では、「小さな道徳授業」を道徳教育や学級経営の充実に生かそうと取り組んでいます。そして今回の研修会は、「小さな道徳授業」をよりよいものにしたいという思いから企画されました。

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 研修会までに、全教師が作成した「小さな道徳授業」指導案が、右のような冊子にまとめられました。

 研修会は次のように進められました。

①  指導案集の中から、3つの素材を選び、グループごとに活用方法を検討する。

②  その素材を活用した指導案を読んで、検討 結果と比較して学ぶ。

③  鈴木によるアドバイスを聞いて、「小さな道徳授業」についての理解を深める。

 ①②を受けて次のテーマで話をしました。


質の高い「小さな道徳授業」を創る

      

 F小学校は、10月に研究発表会を予定しており、「小さな道徳授業」への取組も研究の特色として打ち出そうとしています。

 指導案集を見ると、なかなか良い素材が活用されています。良い素材を発見する感覚が確実に高まっていることを感じました。

 ですから、F小学校の今後の課題は、良い素材をどのように活用すれば、「小さな道徳授業」の質が高まるかということです。

 そこで、質の高い「小さな道徳授業」の条件として以下の5つを提案し、指導案集の中の一つの素材を取り上げてどんなプランにするとよいかについてアドバイスしました。

① 魅力的な教材

② 明確な「ねらい」の設定

③ 問題意識を高める教材提示

④ 「ねらい」に迫る発問の工夫

⑤ 意識を持続させる工夫

 指導案集の表紙に「1」と記してあることに気づかれたでしょうか。おそらく「2」「3」が作成されていくのだと思います。

 この5つの条件を意識しながら創られる今後の「小さな道徳授業」プランに大きな期待がふくらむ研修会でした。



漫言放語~1月~

コロナ禍における道徳授業の重要性

SDK代表 鈴木健二

 新年最初の仕事は、熊本から始まります。それが20年以上続いています。

 今年も、熊本のセミナーで幕を開けました。コロナ禍の中での対面セミナーなので、細心の注意を払って開催されましたが、対面セミナーの良さを改めて感じた一日となりました。

 私が依頼されていたのは、次の2つのテーマです。


 ①  コロナ禍における道徳授業の要諦

 ② 「コロナ禍だからこそ」スペシャル模擬授業


 やはりコロナ禍からのスタートとなりました。

 ①で話したのは、次の3つです。


 ・ コロナ禍によって学級経営にマイナスの影響が出やすくなっていること

 ・ 学級経営にマイナスの影響が出ると授業の質が低下してしまうこと

 ・ そのような状況になることをできるだけ未然に防ぐためには、道徳教育が重要になること


 道徳授業プランの例として提案したのが、「やさしさはみんなにおくるプレゼント」というポスターを活用した授業です(名古屋市・名古屋市教育委員会・愛知人権啓発活動ネットワーク協議会)。「みんなに」という言葉の意味を子どもたちと考えていくことが授業の大きなポイントになります。

 「やさしさ」に対する認識が深まれば、学級経営がプラスの方向に進むはずです。それがコロナ禍によってマイナスの影響が出ることを未然に防ぐ力となっていくことでしょう。

 参加者からは次のような感想が寄せられました。


□ 鈴木先生の講座では、コロナ禍の道徳授業で大切にしなければならない視点を学びました。それは、「先手をうつ」です。私は、「コロナによるいじめや差別が学級でも起きたらどう対応しよう」という意識しかありませんでした。そのため、問題に手をうつ道徳授業のことばかり考えていました。この言葉を聞いたときハッとしました。私は、子どもたちを育てる機会を逃していたと気づいたのです。鈴木先生は、いじめや差別の先手として、やさしさの認識を深める道徳授業を提案されました。今後は、この提案を参考にして「先手をうつ」道徳授業を考えていきたいと思いました。


 コロナ禍だからこそ、子どもたちが学べることはたくさんあるはずです。

 SDKでは、今年も道徳授業を活用して子どもたちの学びを深めていきます。



漫言放語~12月~

看護学校でも生かせる「小さな道徳授業」

SDK代表 鈴木健二

 毎年秋に、看護学校の教師をめざしている方々に、「学級経営の基礎・基本」という授業をしています。受講生は、全国各地からやってきた看護師経験のある方です。

 最初依頼されたときには、なぜ看護学校で「学級経営の基礎・基本」が必要なのだろうと思いましたが、話を聞いてみると、看護学校でも学生の指導が難しくなってきていて、学級経営を学ぶ必要性があるのだということでした。

 受講生は、学ぶ意欲に満ちていて、今では毎年行くのが楽しみになっています。

 授業では、「子どもの成長を促す学級経営の基礎・基本」として次の3点を示し、具体的な事例をもとに議論します。

 ① 教育目標で育てる

 ② 日々の教育活動で育てる

 ③ 道徳教育で育てる

 この中で特に関心をもってもらえるのが道徳教育です。

 人の命をあずかる看護師にとって道徳教育は重要だと感じてもらえるからでしょう。

 看護学校には道徳授業はありませんが、道徳教育を行うことは可能です。

 その道徳教育の大きな武器になるのが、「小さな道徳授業」です。

 「小さな道徳授業」とは、5~15分程度でできる短時間の道徳授業です。

 教師がいいなあと思った素材を提示して、発問を一つか二つ工夫すれば、誰でもすぐに行うことができます。

 授業の休憩中に、トイレでたまたま見かけたシールを紹介して、こんなものでも教材にすることができるという話をしました。そのシールには、お風呂の中で水の使い道をあれこれ考えているイカのイラストとともに次の言葉がありました。

 「考えよう!水をイカす使い方!!」

 何気ないシールですが、うまく活用すれば、子どもたちに水の大切さを意識させることができます。

 短時間でできる「小さな道徳授業」は、朝のちょっとした時間などを活用して行うことが可能です。道徳授業がない看護学校でも、生き方を学生と一緒に考える時間をつくることができるのです。

 授業の後半では、ある教材をもとに「小さな道徳授業」プランをつくってもらいましたが、授業経験がほとんどない受講生でも、さまざまなアイデアを出すことができました。いいなあと思える素材さえ発見できれば、自分でも「小さな道徳授業」プランをつくることができると感じてもらえたようです。

 今後、看護学校にも「小さな道徳授業」が広がっていくのではないか、という手応えを感じた一日でした。



漫言放語~11月~

ある中学校の挑戦

SDK代表 鈴木健二

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 10月下旬、愛知県のI中学校が道徳教育の研究発表会を開催しました。

 I中学校の道徳授業づくりのベースになったのは、次のような考え方です。

① その教材ならではの「ねらい」を設定する

② 教材に興味をもたせる

③ 思考を刺激する発問を工夫する

④ 身近な問題として意識づける


 これは、新しい道徳授業づくり研究会(SDK)で取り組んでいる道徳授業づくりの基本です。

 この考え方をもとに学校全体で取り組み、質の高い道徳授業を公開しました。

 特筆すべきは、I中学校が参加者に素敵なお土産を用意していたことです。

 それが、『朝道徳実践集』です(右写真)。

 これは「小さな道徳授業」の実践集です。

 I中学校では、全学級で「小さな道徳授業」に取り組んできました。その実践を集大成した冊子を作成したのです。

 この冊子には、次のような特徴があります。

① すべての内容項目を網羅している。

② 誰でもすぐに実践できるように、授業プランが示されている。

③ 思実践者による手応えや授業のコツなどが示されていて実践するときの参考になる。


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 研究発表会に参加した教師は、この冊子をもらうことができただけでも大きな収穫になったはずです。

 道徳教育を研究している学校だからできる道徳授業ではなく、誰でも取り組むことのできる実践的な提案をしたい、という思いが凝縮された冊子となりました。

 I中学校の研究に2年間関わってきた私も、教科書教材部会の助言者として参加しましたが、大きな満足感を得ることができました。

 SDKで取り組んでいる道徳授業づくりの基本には、学校全体の道徳授業を大きく変える力があることを改めて感じることのできた一日となりました。



漫言放語~10月~

オンラインセミナーで学ぶ

SDK代表 鈴木健二

 コロナ禍で、対面によるセミナーや研修会の開催が難しい状況が続いています。そこで、オンラインによるセミナーや研修会を行っています。オンラインでは講師と参加者が同じ空間にいないので、参加者の表情やつぶやきなどがとらえにくく、臨機応変の展開ができないという弱点があります。しかし、オンラインだからこそのよさもいくつか発見することができました。


① 遠隔地に住んでいてセミナー会場までなかなか足を運べない人や、家庭の事情などで家を空けることが難しい人も、気軽に参加できる。

② チャット機能などを活用することにより、一人一人の考えを全員で共有できる。

③ プレゼンテーションの画面を自分のパソコンで間近に見ることができるので、内容を把握しやすい。


 9月初めに開催された「第6回感性を磨くセミナー」には、九州から北海道まで、日本各地の教師が参加しました。参加者の学びのレポート(セミナーの学びを分析してレポートにまとめる参加者が何人もいます)から、いくつか紹介しましょう。

 まずは、中堅教師Sさんです。


□ コロナ禍にあっても、学びを止めない、歩みを止めないSDKに参加してよかったと心から思います。今年度、前年度学年崩壊した子どもたちの学級担任をしながら、道徳を軸にした学級づくりに確かな手応えを感じています。

  

 Sさんは、「コロナ禍だから何もできない」ではなく、「コロナ禍の中で何ができるか」を考えることが大切であることを感じ取っています。そして学びを学級経営に生かしています。学びを止めない教師だけが子どもを成長させることができるのです。

 

 次に若手教師Nさんです。


□ チャットでたくさんの人の意見を見ることができたり、グループセッションで他の先生方と意見交流することができたりと、オンラインならではの学び方もあり、大変勉強になりました。オンラインにはオンラインの良さがあるのだと感じさせられました。


 Nさんは、対面のセミナーに何度も参加している教師です。そのNさんが、オンラインセミナーに参加したからこその学びを発見しています。まずは参加してみること、それが新たな学びにつながります。

 今後もSDKでは、学びたい教師の熱い思いに応えるセミナーを開催していく予定です。



漫言放語~9月~

「小さな道徳授業」を学級経営に生かす

SDK代表 鈴木健二

 すべての子どもが幸福に育つ環境はおそらく存在しない。

 だけど子ども時代の幸福な記憶は一生の宝物になる。

 子どもたちがそんな日々を過ごせるよう切に願い手を差し伸べる。

 それは全人生をかけるだけの価値がある仕事だ-と。


 これは、『リエゾン-こどものこころ診療所-』(講談社)という漫画(テーマは発達障害)のある場面の言葉です。

 ここで取り上げられているのは、ある小児科医の言葉ですが、私たち教師にもそのまま当てはまるのではないでしょうか。

 児童虐待など、子どもたちのさまざまな問題が報道されているように、「すべての子どもが幸福に育つ環境はおそらく存在しない」のです。だからこそ、「子ども時代の幸福な記憶は一生の宝物になる」という言葉が響いてきます。

 私たち教師の仕事は、


 せめて学級にいる時間だけは、「幸福な記憶」をつくり、「一生の宝物」になるようにすること


ではないでしょうか。

 そして、そのような仕事は、全人生をかけるだけの価値があるのです。

 すべての子どもたちに、「幸福な記憶」をつくってあげることは簡単なことではありません。しかし、このような意識をもつ教師でなければ、教育の質を高めていくことはできないでしょう。

 その鍵を握るのが道徳教育だと考えています。

 今年は、コロナ禍のため、学級経営がいつもより難しくなっているという声も届いています。だからこそ、子どもたちの心に響く道徳授業が、大きな効果を生むのではないでしょうか。

 SDKでは、そのような道徳授業を生み出すために「小さな道徳授業」ゼミを行っています。7月に開催された第4回ゼミでは、16本の「小さな道徳授業」プランが提案されました。次のような素材が活用されていました。


 「目指すなら、100点より、100%」(東京海上日動)

 「走ったことがない距離だから決めた!」(愛媛トヨタ)


 これらの素材を効果的に活用するための授業プランが提案され、会員で意見の交流を行い、さらにプランをブラッシュアップさせていくのです。

 夏休み明けの子どもたちのモチベーションを高める効果が期待できそうです。 



漫言放語~8月~

教科書教材の効果的な活用に挑戦する

~第3回SDK誌上全国大会~

SDK代表 鈴木健二

 新型コロナウイルスの影響で、全国大会を誌上で行うことになりました。

 次のような大会テーマを設定しました。


『認識の変容を促す教科書教材の活用 ~4つの視点からのアプローチ~』


 道徳が特別の教科となり、多くの小中学校では教科書が使われていますが、あまり効果的に活用されているとは言えない現状があるからです。

 その原因の一つとして考えられるのが、


 どのように教材研究すればいいかわからない


ということです。

 そこで、冒頭に示したようなテーマを設定し、教科書教材を効果的に活用する方法を追究することにしたのです。

 会員からは、小学校から中学校までのさまざまな教科書教材を活用した実践例や授業プランが提案され、100ページほどの冊子が完成しました。どのページを開いても実践にすぐ役立つ提案が満載されています。

 教科書教材を効果的に活用するポイントは次の4つです。


① その教材ならではの「ねらい」を設定する。

② 教材に興味をもたせる。(問題意識を高める)

③ 思考を刺激する発問を工夫する。

④ 身近な問題として意識づける。


      

 ポイントはわかっていても、それを実際の授業づくりにうまく活用できるかどうかは、教師の力量次第です。今回の誌上全国大会では、会員が、4つのポイントを意識しながら教科書教材の効果的な活用に挑戦しています。

 これらの提案から、教科書教材を効果的に活用するための新たな視点も見えてきそうです。

 誌上全国大会では、「小さな道徳授業」プランも数多く提案しています。

 「小さな道徳授業」プランづくりも、教科書教材の効果的な活用につながる重要な視点を含んでいるからです。

 SDKで教科書教材を効果的に活用する力量を高め、子どもにとって意味のある道徳授業づくりに挑戦していきましょう。



漫言放語~7月~

元気の出る話

SDK代表 鈴木健二

 コロナウイルスの報道が連日長時間流されています。気が滅入るニュースが多い中で、ちょっと元気をもらえるニュースもあります。

 例えば、


ベルギーの老人ホームで高所作業用のクレーンが大活躍をしている


というニュースです(「羽鳥慎一のモーニングショー」テレビ朝日2020年4月28日放送)。

 高所作業用のクレーンが老人ホームで何をするのでしょうか。

 何と、コロナウイルスの影響で面会が禁止になっているお年寄りと家族が窓越しに会えるようにしているのです。

 このアイデアを思いついたのは、コロナウイルスの影響で仕事が減っている機材のレンタル業者です。老人ホームの前で大声で叫ぶ家族の姿を見て、自分の機材が役立つと考え、このようなことをやっているのです。この人は、面会できたことを喜んでいる人たちを見て、自分自身も元気をもらっているのではないでしょうか。

 仕事が減っているのにも関わらず、誰かのためにすばらしい発想で自分ができることをしている人がいるのだと知って、元気をもらいました。

 ここから学べるのは、


自分にできることを少し工夫して生かせば、誰かのためになる行動につながる


      

ということです。

 そこで、次のような「小さな道徳授業」プランを考えてみました。


①  ビルの窓にクレーンが人を乗せて近づいている写真を見せて、「気づいたこと、考えたこと、はてなと思ったこと」を発表させる。

②  老人ホームの建物であることを知らせたあと、「“1ヵ月ぶりの笑顔”家族が窓越しに再開」という言葉を提示し、いったい何をしている場面なのか話し合わせる。

③  場面の説明をしたあと、レンタル業者の人から学べることを話し合わせる。

④  学んだ考え方をどのように生かすことができそうかを考えさせる。


 素敵な人のニュースを発見して教材化し、子どもたちを元気づける授業をしたいですね。



漫言放語~6月~

教師自身の価値観を深める

SDK代表 鈴木健二

 私たちは、「障害者」「健常者」という言葉をあまり違和感を持つことなく使っています。それは、いつの間にかそのような価値観を植え付けられているからではないでしょうか。

 このような現状に違和感を持つ広瀬浩二郎氏(国立民族学博物館)は、次のような提案をしています(「障害者は弱者か 視覚偏重社会に問う」朝日新聞2020年5月27日)。


□ 「健常者」を「見常者」に、「視覚障害者」を「触常者」に呼びかえ、食文化ならぬ「触文化」を構築してはどうか。


 「触常者」という言葉を聞いて、そのようなとらえ方があるのか、と目から鱗が落ちる思いでした。

 広瀬氏は言います。

 「たとえば視覚障害者は触覚や聴覚が研ぎ澄まされている。視覚優先の社会ゆえに失ったもの、むしろ目が見えるゆえに気づかない世界もあるのでは。さわることで、より深く理解できるものもある」

 このような考え方に触れると、自分自身の価値観が揺さぶられます。

 大学院で「道徳教育の理論と実践」という授業を担当しています。

 第1回目の授業では、「質の高い道徳授業をするためには、教師自身の価値観を深めることが大切だ」という話をします。すると、大学院生から、次のような質問が出されます。


□ 価値観を研ぎ澄ましたり、良い着眼点を得たりするために日頃からできることは何でしょうか。


 私は、次のように答えます。


自分にはない新たな考え方を学び続けることでしか、価値観を深めていくことはできない。


 前半で取り上げた広瀬氏の話からも「自分にはない新たな考え方を学ぶ」ことができます。このような小さな学びの積み重ねが、自分自身の価値観を深めることにつながっていくのです。このような小さな学びの積み重ねが、自分自身の価値観を深めることにつながっていくのです。

 ここで述べたのは当たり前のことですが、このようなことを意識している教師はあまり多くないように思います。

 新型コロナウイルスの影響で、世の中では思いもよらなかった出来事が起きています。

 教師自身の価値観を深めていく貴重な機会ととらえてはどうでしょうか。



漫言放語~5月~

コロナで見えてきたこと

SDK代表 鈴木健二

 ただでさえマスクをする人が多かった日本人ですが、コロナウイルスの影響でさらにその着用率が高まっています。今や付けていない人が肩身の狭い思いをしなければならないほどです。

 しかし、マスク着用が広がるという状況に困っている人がいます。

 それは、聴覚障害者の方々です。

 新聞に次のような見出しがありました(毎日新聞2020年4月20日)。


「レジで、会議で、誰が何を…」聴覚障害者につらいマスク、テレワーク 


 この記事では、次のように伝えています。


□ 新型コロナウイルスの感染拡大で当たり前となった、マスクの着用やソーシャルディスタンシン
グ、在宅でのテレワーク……。しかし、口の動きを読み取ることでコミュニケーションを補ってきた耳の不自由な人たちは「スーパーや病院で誰が何を言っているかわからない」「ビデオ会議の画面は見づらく詳細が把握できない」と困惑している。


 マスクの着用が当たり前になりつつある世の中で、私たちが気づかないところで困っている人がいるわけです。

 道徳授業では、障害のある人を取り上げることもありますが、それにも関わらず、自分の想像力の乏しさに愕然とした記事でした。

 このような状況に対して、早速動く方々もいます(毎日新聞2020年5月5日)。


手話通訳者が透明マスク開発 市販のビニール製封筒活用 山形


□ 新型コロナウイルスの感染拡大を受け、山形市役所で手話を使う同市身体障害者福祉 協会の職員
2人が、マスクを外さずに手話ができるようにと、ビニール製の透明なマスクを手作りで作製した。耳が不自由な人たちとの会話は口の動きなど、表情を伝える必要があるため考案した。


 このような事実を知ると、物事の見方・考え方が変わります。自分になかった新たな視点を学ぶことができます。

 ここで挙げた事例のように、コロナウイルスがもたらした社会状況の中から、学ぶべきことがいくつも発見できます。

 コロナで見えてきたことを教材にして子どもたちと議論していくことが、今後の生き方に大きな影響を与えることになるのではないでしょうか。




漫言放語~4月~

成長したいと願う教師のための研究会

SDK代表 鈴木健二

 SDKを立ち上げたのが、昨年の4月27日でした(SDK発足記念の第1回全国大会を開催)。

 あれから一年が経とうとしていますが、この間、次のような動きがありました。

 ① 全国大会の開催(4月と8月に開催)

 ② 支部大会(大阪・福岡)の開催(コロナウイルスの影響により延期)

 ③ 会員数の増加(当初の目標に近づいています)

 ④ 全国各地に支部が発足(大阪、福岡、熊本、大分、宮崎など)

 ⑤ 機関誌『談論風発』の発行(年3回)

 ⑥ メールマガジンの発行(年4回・会員限定)

 ⑦ 定例会の開催(2ヶ月に一回開催・会員限定)

 SDKで重視していることの一つが、


 質の高い道徳授業をつくることのできる教師を育てる


ということです。

 教師を育てるためには、次の三つが大切だと考えています。

 A 誰でも取り組める授業づくりのステップの提案

 B 授業づくりのステップを活用したすぐれた授業の提案

 C 自分の授業を提案し検討する場の設定

 Aは、これまでほとんど提案されてきていません。だから道徳授業をどうしたらいいかわからない教師が圧倒的に多いのです。全国大会や支部大会では、道徳授業初心者にもわかりやすく、すぐに役立つ提案をしています。

 Bについては、全国大会や支部大会で、すぐれた実践を生み出している会員が魅力的な提案をするとともに、機関誌やメールマガジンで、多様な授業実践を誰でも追実践できる形で発信しています。

 そして、特に大切なのがCです。

 理論やすぐれた授業実践を学んでも、自分の授業に生かすことは簡単なことではないからです。学ぶ意欲の高い教師の前で自分の授業を提案し、厳しい検討を行うことによって初めて自分の課題が見えてくるのです。この検討の場の中心的な役割を果たしているのが定例会です。定例会に継続して参加することによって、自分の実践が客観的に見えてくるようになります。

 新年度がスタートしました。新たな企画も進んでいます。

 本気で成長したいと願っている多くの教師の参加を待っています。




漫言放語~3月~

新聞と道徳授業

SDK代表 鈴木健二

 大分県中津市で大分県NIE実践研究会とコラボしたセミナーが開催され、「新聞と授業づくり~考える力を育てる~」というテーマで講演しました。

 新聞は、各教科等の授業に活用できる素材の宝庫です。

 中でも、「特別の教科 道徳」は、新聞記事を活用しやすい教科の一つです。

 とはいうものの、今回のテーマには、「考える力を育てる」というサブテーマがつけられています。ただ新聞記事を活用すればよいというのではなく、「考える力を育てる」ことにつながる授業づくりについての提案が求められているわけです。

 当たり前のことですが、授業をすれば子どもが考えるわけではありません。

 そこで大切になってくるのが、子どもたちが考えたくなるような仕掛けです。

 講演の中で活用した新聞記事の一つが、


自分のゴミ、責任持とう


という日本に15年以上住んでいるという外国の方の投稿でした(讀賣新聞2020年2月12日)

 題名を見て、どんな内容が書いてあると予想されるでしょうか。

 実は、ほとんどの人の予想を覆す内容が書いてあります。

 この題名をうまく活用することによって、子どもたちに興味をもたせるとともに思考を促すことが可能になります。

 このような授業を受けると子どもたちは考えることの楽しさを感じます。

 これが、「考える力を育てる」第一歩となるのです。

 もう一つ準備していたのが(時間の都合で扱えませんでしたが)、「東京五輪・パラ大会モットー決定」という新聞記事です(毎日新聞2020年2月18日)です。

 この記事には、次のようなモットーが大きな文字で書かれていました。


United by Emotion(感動で、私たちは一つになる)


 このモットーの言葉だけでも、子どもたちの思考を促す授業をつくることができます。

 思考を促されると、ほかの人の考えも聞いてみたくなります。

 ここから交流が始まります。

 講演会でも、参加者(小中学校の教師の中に、一人だけ中学2年生が参加していました)は、投稿の記事をめぐって、さまざまな意見の交流をしました。

 新聞記事から、子どもたちが本気で考えたくなる道徳授業を開発することも、SDKの重要な取組の一つです。


漫言放語~2月~

質の高い道徳授業をめざして

~支部大会で学び合おう~

SDK代表 鈴木健二

 2月、3月と立て続けにSDK支部大会が開催されます。

 支部大会は、各支部が独自に運営する大会です。

 本部事務局は協力はしますが、一切口出しはしません。

 支部会員が学びたいことを自由に企画できるところが魅力です。


2月29日(土)大阪支部大会 大会テーマ『子どもの変容を促す道徳授業とは』


 子どもたちの認識の変容を促すことができなければ、道徳授業をする意味がありません。

 現在小中学校で行われている道徳授業の多くは、子どもたちがすでに知っていることをなぞるだけの内容になっています。これでは、せっかくの道徳授業が子どもたちにとって意味のあるものになりません。

 「どうしたら子どもたちの認識の変容を促す道徳授業をつくることができるのか」

 この重要なテーマに挑戦するのが、大阪支部大会です。小さな道徳授業、教科書を活用した道徳授業の2つの視点で、子どもの認識の変容を促す道徳授業のあり方について検討します。

 私も最近参観した道徳授業をもとに、このテーマに迫る予定です。


3月29日(日)福岡支部大会 大会テーマ『子どもの思考を揺さぶる道徳授業とは』


 多くの小中学校が、「考え議論する道徳」を研究テーマに掲げて取り組んでいますが、なかなかうまくいっていないのが現状です。何でも考え議論すればいいというわけではないからです。重要なのは、

 「何を考えさせるのか」「何を議論させるのか」

ということです。

 この「何を」という部分の検討が十分なされなければ、「考え議論する」意味が弱くなってしまうのです。

 福岡支部大会では、子どもの思考を揺さぶる道徳授業のあり方について、小さな道徳授業、教科書教材、開発教材の3つの視点から、数多くの実践的提案が予定されています。

 二つの支部大会は、新年度に向けて道徳授業の質を高めたいという意欲をもっている教師にとって、貴重な学びの場となるはずです。子どもたちにとって意味のある道徳授業をつくりたいと願う全国の教師との出会いも貴重な体験となることでしょう。


※ 支部大会ではありませんが、2月22日(土)は、大分県中津市で大分県NIE実践 研究会とコラボしたセミナーが開催されます。道徳授業づくりのポイントや素材研究の基本、新聞を授業にどう活用するかなどについて学びを深めます。

漫言放語~1月~

SDKを立ち上げた志

SDK代表 鈴木健二

 1月はじめに熊本市で道徳セミナーが行われました。

 20年以上にわたって講師を務めていますが、今年も満員御礼でした。

 毎年のことですが、事務局のS先生の奥様と娘さん(お二人とも教師)が、受付で参加者に丁寧な対応をされていました(お二人は終日最後尾の受付席で講座を聴かれています)。このような人たちに私たちは支えられています。

 このセミナーの第一回がスタートしたのは、私が精神的に落ち込んでいた時期でした。

 主催者のM先生から、職場に講師依頼の電話がかかってきたときのことを昨日のことのように覚えています。このセミナーの講師を引き受けたことが、立ち直るきっかけになっていきました。現在の私の原点とも言えるセミナーです。


 今回のセミナーで依頼されたテーマは、

 SDKを立ち上げた志

でした。

 講演時間をまるまるSDKの魅力を伝えるために使えるということです。

 M先生の粋な計らいをうれしく思うと同時に、SDKなんてまったく知らない参加者にしっかりと魅力を伝えなければと身が引き締まりました。

 SDKを立ち上げた志を一言で言うなら

 子どもにとって意味のある道徳授業をつくる

ということです。

 「子どもにとって意味のある道徳授業」とは、「子どもたちがこれから生きていく上で何らかの支えになる授業」ということです。

 しかし、現在行われている道徳授業の多くは、「あまり印象に残っていない」(北海道の高校生の声)、「新しいことを学んだという記憶がない」(三重県の高校生の声)という状況に陥っているように思えます。

 このような現状を少しでもよい方向に変えていきたい。

 これがSDKのめざしていることです。


 さて、セミナーでSDKの魅力は伝わったのでしょうか。

 私の話のあと、入会希望者が相次ぎました。

 この熱気は懇親会場にも引き継がれ、ここでもセミナー会場以上の入会希望があり、何とかM先生の配慮に応えることができたようです。

 2020年、熊本セミナーで幸先のよいスタートを切ったSDK。

 会員とともにさらに質の高い道徳授業の提案をしていく予定です。

 私たちと一緒に、子どもにとって意味のある道徳授業づくりにチャレンジしませんか。

漫言放語~12月~

教材の本質が見えていないという自覚をする

SDK代表 鈴木健二

 全国各地で道徳授業を参観します。

 参観しながら感じるのは、


 教材の本質が見えていないまま授業をしている教師が多い


ということです。

 残念ながら多くの教師は、そのことに気づいていません。

 なぜ気づかないのでしょうか。

 次のような点が原因として挙げられます。


① 小中学生用の教材だから、教師である自分には十分読み取れていると思っている

② 教科書会社が示している内容項目に縛られてしまい、それ以上教材の本質を見よ

  うとしない


 ある大学院生の授業を参観して指導する機会がありました。

 授業の素材は絵本です。

 自分がいいなあと思った絵本を教材化して授業を行ったのです。このようなチャレンジをする姿勢がすばらしいと思いました。

 授業を参観したあと、いくつかの課題を指摘したのですが、特に今後の重要な課題として「この絵本の本質が見えていない」という指摘をしました。教材として活用された絵本の本質について私なりのとらえ方も話しました。

 すると、その大学院生は涙ぐみながら次のように言ったのです。

「私は教材の本質がなかなか見えないんです。だから授業をしたくないんです。授業が苦手なんです」

 自分の授業が思うようにいかなかったことがよほど悔しかったのでしょう。

 しかし、この大学院生はすでに一歩踏み出しています。

 教材の本質が見えていないという自覚のない教師が多い中で、自分は見えていないという自覚をしているからです。

 どうしたら教材の本質が見えてくるようになるのでしょうか。

 その第一歩は、


 自分には教材の本質が見えていないという自覚をする


ことです。このような自覚があれば、教材の本質が見えるようになるための努力が始まるからです。

漫言放語~11月~

生徒が変わる道徳授業

SDK代表 鈴木健二

 ある中学校で道徳授業をしました。

 授業前に学級担任から、学級の様子について説明を受けました。

 それによると、中学校入学以来、授業中全く発言しない生徒(A君)が一名いて、先日担任が行った授業でも、指名したら固まってしまい、周りの生徒がサポートしてくれた場面が

あったとのことでした。

 ですから、その生徒に留意して授業を進めた方がよいのではないかという話でした。


 授業のテーマは、「人生を切り開く大切な力」。

 小さな道徳授業を3つ組み合わせて構成した授業です。

 小さな道徳授業は、10~15分くらいのちょっとした道徳授業なので、共通するテーマの小さな道徳授業をいくつか組み合わせて構成すると一時間の道徳授業をつくることも可

能です。複数の教材の共通点や相違点を考えさせることによって、思考を深めることができる上に、短時間で教材が変わっていくので、生徒の集中力も途切れにくくなります。


 いよいよ授業が始まりました。

 授業序盤の生徒の反応を見て、とてもよい雰囲気の学級だなと感じました。

 A君に留意しつつ授業を進めていましたが、終盤になって指名してみることにしました。授業ではペアで話し合ったり、自由に歩き回って交流したりする場面をつくっていた

のですが、その時の様子などを見ていると、発言しそうな気がしたのです。100%の確信があったわけではないので、発言できない場合には、別の対応をすればよいと考えてい

ました。

 A君の座っている列を指名しました。

 前に座っている生徒から発言し始めます。

 いよいよA君が立ち上がりました。

 どうなるだろうと思って見ていると、しっかりした声で自分の考えを発言したのです。

 この授業で最もうれしい瞬間でした。

 中学校に入って一年半、教室で一度も発言したことのないA君が、突然やってきて授業をした教師の前で発言したのです。


 数年前、熊本県の中学校で授業をしたとき、ある生徒の発言に対して、

「あなたの考えはとても深いですね」

 と言ったことがありました。授業後、特別支援学級に在籍している生徒だったことがわかりました。参観していたその学校の教師は、生徒の様子を見て驚いていたそうです。

 考えたくなるような道徳授業、発言したくなるような道徳授業をすることによって、生徒は大きく変わるのです。

 この授業がA君の人生を切り開く小さなきっかけにでもなるといいなと思いました。

 私の記憶に深く刻み込まれる授業の一つになりました。

漫言放語~10月~

道徳授業のチカラ

SDK代表 鈴木健二

 先日、ある中学校の研修会に行ってきました。

 2年間にわたって道徳教育の研究を積み重ねてきた中学校で、昨年度の研究発表会には

全国から多くの参観者が訪れました(研究には私も2年間関わりました)。

 「今年度もさらに研究を深めていきたい」という意欲を多くの教師がもっていて、継続してきてほしいということで訪問しました。

 1年生から3年生まで授業を3つ参観したのですが、次の点がどの学級にもしっかり根付いていることを実感しました。


 ① 教室に温かい雰囲気が漂っている

 ② 生徒の学びに向かう姿勢が積極的である

 ③ 自分の考えをきちんと書くことができる

 ④ 発表するときに、自分の考えを伝えようとする意識が感じられる

 ⑤ 友だちの意見にしっかり耳を傾けている


 この中学校は、道徳授業の充実に2年間取り組んだことによって、思わぬ効果も表れました。

 それは、学力がかなり向上したということです。

 先に挙げた5つが学級に根付くことによって、各教科の授業の効果も上がるようになったのでしょう。

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 道徳授業の効果を高めた要因はもう一つあります。

 それは、


小さな道徳授業に全校で取り組んだこと


です。

 右の写真は、今回訪問したときにいただいた「小さな道徳アイデアシート」というファイルです。独自に開発した教材や授業プラン

が満載です。この中学校では毎週水曜日の朝の時間に、全校で小さな道徳授業に取り組んでいます。

一時間の道徳授業との相乗効果で、大きな成果につながったのです。

漫言放語~7月~

定例会で学ぶ!

SDK代表 鈴木健二

 6月に、SDKの第一回定例会(会員限定の研究会)を開催した。

 大阪や福岡からも参加があり、なかなか刺激的な内容となった。

定例会の目的は次の3つである。


 1 道徳授業づくり理論の確立

 2 道徳授業づくり上達論の確立

 3 SDK版「道徳教科書」の開発


 1について。

 全国各地の小中学校や教育委員会の研修会で講演をするときに、次のような問いかけをする。


 自分が道徳授業をつくるときの基礎・基本はこれだというものがありますか。


 多くの教師は、自信なさそうな表情を浮かべる。

 道徳授業をどのようにつくっていけばいいのか、よくわからないのである。

 これでは、キャッチボールもうまくできないのに、野球の試合に出るようなものである。

 定例会では、このような現状を改善するために、会員の実践的な研究をとおして、道徳授業づくりの理論を確立していきたいと考えている。

 2について。

 道徳授業づくりの理論を学んだからといって、すぐに授業が上達するわけではない。

 わかることとできることは別のことだからである。

 そこで、定例会では、どうすれば道徳授業づくりが上達するのか、会員の実践や授業プランの検討をとおして追究していく。今回の定例会でも、参加者全員が実践レポートや授業プランを提案し、学べる点や改善点を検討した。

 3について。

 道徳の教科化に伴い、教科書が使われるようになった。しかし、多くの教師の教科書に対する評価はあまり高くないように感じる。今後、教科書も少しずつ改善され、質の高まりも期待されるが、それを待っているだけでは、現状はなかなか改善されない。そこで、SDKでは、独自の教材の開発も視野に入れている。その中心となるのが、定例会である。

 次回の定例会は、10月を予定している。

 テーマは、


小さな道徳授業の教材開発の可能性を探る


である。定例会参加者から、数多くの素材が提案されることになっている。


【全国大会のご案内】

 8月18日(日)に開催される全国大会では、会員の自由研究発表や小さな道徳授業のレポートの提案と検討、先進的な取組をしている会員の講座が行われる。二学期の道徳授業の充実に向けて、大きな学びの場となるはずである(満席まであとわずかです)。

漫言放語~5月~

SDK、ついに始動!

SDK代表 鈴木健二

 第一回SDK全国大会(発足会)が開催された。

 10連休の初日にもかかわらず、熊本、長崎、兵庫、大阪、神奈川、三重、愛知など、日本各地から、新しい道徳授業づくりに高い関心をもつ教師が集まった。教師以外にも、

教育書出版社、読売新聞、教科書会社の方なども参加され、SDKの活動に対する関心の高さを感じた。

 全国大会の冒頭は、「小さな道徳授業対決」というちょっと刺激的な企画だった。

 「小さな道徳授業」は、これからの道徳授業を子どもたちにとってよりよいものにして

いくための土台となるものであり、SDKの重要な取組の一つである。

 その「小さな道徳授業」の模擬授業を3名の教師が提案し、どれがよかったかを参加者が協議するという企画である。

 提案された授業のテーマは、次の3つ。

 A 挨拶の意義…素材:野口芳宏氏の著書

 B 整理整頓の意味…素材:学級の生徒のロッカー

 C 成功するための思考方法…素材:Eテレの番組

 書籍、学級の実態、テレビ番組など、素材をいろいろなところから発見し、活用していることがわかる。これが「小さな道徳授業」のよさであり、おもしろさである。朝の会な

どのちょっとした時間を活用して行う道徳授業なので、教師がいいなあと思える素材を日常的な場面から発見し、子どもたちと自由に話し合えばよい。少々の失敗を気にせず、気軽にチャレンジすればいいのだが、SDKとしては、せっかく発見した素材をより効果的に活用していくための方法を追究していきたい。

 このほか、視点1、視点2、視点3による3つの講座も行われた。

 3つの講座に共通していたことは、

 道徳授業づくりのポイントをわかりやすく伝えたいという意識が明確だったこと

である。一部の教師だけしかつくることのできない道徳授業ではなく、どの教師にもつくることができる方法や考え方を波及させていくこともSDKの重要な取組の一つである。

 発足会の詳細は、会員限定のメールマガジンでいずれ配信される予定である。

 支部も次々と設立され始めている。

 一番目に名乗りを上げたのは、兵庫支部。発足会前から支部をつくりたいと意気込んでいた。発足会を機に名乗りを上げたのが、福岡支部、大阪支部、熊本支部である。あっという間に4つの支部が設立されたスピード感は、予想をはるかに上回っている。道徳授業を子どもたちにとってよいものにしていきたいという思いが強い教師が発足会に参加していたということだろう。

 夏の全国大会に向けて、さまざまな企画が出されている。兵庫支部では、第一回の支部大会が計画されつつある。大阪支部もおもしろい企画を仕掛けている。

 さらに多くの会員の協力を得て、これからの新しい道徳授業づくりを提案していきたいと思う。

開催予定

2024年3月28日(木)13:30~16:15第1回 知立教育サークルセミナー
2024年4月13日(土)13:30~17:00新しい道徳授業づくり研究会「SDK」5周年記念大会
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