読書日記~3月~

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『おとなになるのび太たちへ』

まんが 藤子・F・不二雄/選 猪子寿之 梅原大吾 梶裕貴 亀山達矢 菅田将暉 田村優

辻村深月 なかしましほ はなお 向井千秋 / 小学館 2020年

文責 F

『世界を変えるもの』

 「あやとり世界。」

 国民的人気マンガ「ドラえもん」で描かれる1つのストーリーである。ある日、のび太は特技のあやとりで新技を開発する。しかし誰にも相手にされない。そこで、「もしもボックス」を使ってあやとりが大流行している世界をつくる、という話である。

 そんな「あやとり世界」を自分の人生に照らして紹介するのが、eスポーツプレーヤーの梅原大五氏である。

 数年前まで、ゲームは、あやとりと同じように取るに足らない、ちょっとした暇つぶしのような存在でした。むしろ「ゲームは悪いもの」と思われていて、ゲームをやっていると怒られたりもしていたのに、最近では「ゲームはそんなに悪くない。仕事にもなるらしい」ということになって、突然手の平を返したように、「すごいですね!」と賞賛されるようになりました。

 自分の特技がなかなか評価されない状態から、世界の方がガラリと一変する、まさしく「あやとり世界」のような体験をしている人物が実際にいたのである。


 しかしこの例は、世界がたまたま運良くガラリと変わったというだけの話ではない。

 梅原氏はいう。

 それは趣味だろうが仕事だろうが、なんだろうが、みんなが諦めちゃうところで、もうちょっと、倍くらいやってみるとか3倍くらいやってみるとか、そうすると、景色が変わってくるっていうのが、実体験としてあります。

 もちろん運の良さもあるだろうが、それは”2倍、3倍のもうちょっと”の継続に支えられているということである。”もうちょっと”の積み重ねこそが、梅原氏をゲームが認められる世界へ導いたのである。


 梅原氏は17歳のときに世界大会で優勝している。

 一人の少年の”2倍、3倍のもうちょっと”の積み重ねが結果を生み、世界を驚かせたのである。それはきっと、ライバルのプロゲーマーを奮い立たせ、多くの新たなプロゲーマーを生み出すことにつながったのではないかと思う。

 そうした”2倍、3倍のもうちょっと”を積み重ねる人たちによって、世界は変わっていくのである。


 諦めるな!やり続けよう!

 実体験をもつ梅原氏の言葉は、重く簡単なものではない。しかし今自分が取り組んでいる端から見れば些細な仕事や趣味に、”2倍、3倍のもうちょっと”を加えたら…、と希望を抱かせてくれる。

読書日記~2月~

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『「大発見」の思考法 ~iPS細胞vs.素粒子~』

山中伸弥 益川敏英 文春新書 2011年

文責 F

『研究者に必要な才能』

 教育実習のときに指導教官から言われた話が今でも心に残っている。

 教師には3つの顔がある。1つ目は、役者の顔。2つ目は、医者の顔。3つ目は、研究者の顔。

 子どもの前での振る舞い方、子どもの見取り方、授業のつくり方、指導教官が教職の心構えを教えるために分かりやすいと考え、話してくれたのである。


 指導教官によれば、教師の3つ目の顔「研究者」。

 “研究者に必要な才能”と言われれば、何を思い浮かべるであろうか。

 新たな発想を生み出す想像力か、根気よく研究し続ける忍耐力か、それとも研究結果を正確にまとめ、報告する誠実さか。


iPS細胞を世に送り出した世界的研究者である山中伸弥氏は次のようにいう。

 自分のやった実験の結果を見て、「うわ、すごい!」って面白がれる人じゃないと、研究を続けていくのは、難しいと思うんです。そこで、心からびっくりできる、感動できるというのが、研究者に必要な才能だと思います。(p90)

 「うわ、すごい!」と面白がる才能がなぜ必要なのか。山中氏はこう続ける。

 実験なんて予想通りにいかないことのほうが多いですから。私は学生にこう言っているんです。「野球では打率三割は大打者だけど、研究では仮説の一割が的中すればたいしたもんや。二割打者なら、すごい研究者。三割打者だったら、逆にちょっとおかしいんちゃうかなと心配になってくる。『実験データをごまかしていないか?』と言いたくなるくらいや」と。

 仮説の的中率が三割を超えるというのは、本当に稀なことです。普通はそんなにうまいこといくわけがない。

 むしろ、予想通りではないところに、とても面白いことが潜んでいるのが科学です。それを素直に「あ、すごい!」と感じ取れることが大切だと思います。(p99)


 山中氏の考えを「研究者」としての教師に当てはめてみるとどうだろうか。

 教材研究をする「研究者」であるとき、自分がどれだけの「うわ、すごい!」に出合う努力をしているだろうか。研究授業をする「研究者」であるとき、子どもの思わぬ反応をどれだけ「うわ、すごい!」と受け止めているだろうか。研究結果について、「実験データをごまかしていないか?」と言われるような研究になっていないだろうか。研究の失敗に感動できているのだろうか。

 iPS細胞は、がん細胞の研究の失敗がきっかけで生まれたという。当時のボスが予想を外してがっかりしている中、未知との出合いに感動した山中氏の才能が、「大発見」を生んだのである。

読書日記~1月~

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『深く考える力』

田坂広志 PHP新書 2018年

文責 F

『敵は、我にあり。』

 「深く考える力」は、どのようにすれば身につけることができるだろうか。


 そのヒントとなるエピソードが本に紹介されている。

 プロ野球選手の若手選手が、張本勲氏に理想のバッティング・フォームを尋ねたエピソードである。

「張本さん、理想のバッティング・フォームについて、教えて頂きたいのですが」

 この質問に対して、張本選手は、こう答えた。

「理想のバッティング・フォームか。もし、君がそれを知りたいのならば、一晩中、素振りをしなさい。一晩中、素振りをし続けて、疲れ果てたときに出てくるフォーム、それが、君にとって一番、無理のない理想のフォームだよ」(P.88)

 著者の田坂氏のよれば、このエピソードが”大切なこと”を教えてくれるという。


 ”優れた授業”や”優れた学級経営”の「答え」を求めて書籍を買ってしまった経験がある。

 セミナーで配布された資料教材について、「自分ならどう授業するか」をよく考えもせず、講師の示す展開の「答え」を速く知りたいと期待してしまった経験。


 あるセミナーで中学年向けの道徳授業を提案したとき、参加者から次のように尋ねられたことがある。

 「これを低学年向けにアレンジするとしたら、どんな展開にしますか」

 私は答えに詰まってしまった。担任する中学年の子どもを想定し、試行錯誤を重ねた結果の提案だったからである。

 この質問者もまた、「答え」を求めていたのだろう。

 「答え」を安易に他者にもとめてしまうことは、私に限らずあるようだ。


 田坂氏はいう。

 永年の体験と厳しい修練を通じてしか掴むことのできない深い「智恵」を、単なる「知識」として学んだだけで、その「智恵」を身につけたと思い込んでしまう。(P.86)

 『「智恵」を身につけた』という思い込みは恐ろしいものである。

 敵は、我にあり。(P.89)

 他者から得た「知識」をいかに自分の「知恵」へと変えていくか。自分が何を思い出し、何を思いつき、何に悩むのか。「深く考える力」を身につけるための第一歩は、『「智恵」を身につけた』という思い込みに陥っていないかどうかを、常に自問自答し続けることにある。

開催予定

2021年8月9日(月)9:50~17:00第4回新しい道徳授業づくり研究会「SDK」全国大会
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